コラム

就活ルール、問題は日程ではないのでは?

2018年09月13日(木)19時30分

企業は大学教育に仕事のスキルを期待していない Yuya Shino-REUTERS

<就活のルールをめぐる企業側と大学側の対立の根底には、大学の教育内容がキャリアに結び付かない、という問題がある>

就活ルールを廃止するか、いや必要ではないかという議論があります。問題は、企業側は「優秀な学生」をできるだけ「早く」確保したい一方で、大学側は「一年中就活されては授業や学生の活動が成立しない」と主張している、その対立にあります。

しかしよく考えると、この議論全体がおかしいと思います。まず企業側ですが、依然として「専門的な職業教育は企業に入ってからOJTや研修でやる」ので、大学教育には期待しないという姿勢が残っているようです。

ですが、現代は仕事に関わる専門性はどんどん高度なものが求められる時代です。本当に、大学というのは入試で「地頭(じあたま)」の良さを証明してくれればよく、教育内容には期待しないという「日本流」が通用するのでしょうか。また、各企業は高度な職業教育のコストをいつまでもかけられるのでしょうか。こうした点で、そろそろ限界が見えてきているように思います。

一方で大学側にも疑問があります。専門性が求められる時代に、明らかに社会人のキャリアには繋がっていかない教育内容なのに、それにこだわって「就活で授業を妨害するな」と主張するのは、どこか不思議な感じがします。

それ以前の問題として、そこまで相互に不信感があるのであれば、企業側は「学士号は不要」つまり優秀な基礎能力を証明できる学生には、大学を卒業してもらわなくても構わないという姿勢を見せてもいいのかもしれません。一方で大学は、そんなに教育が大事なら、就活による欠席は「サボり」と扱って、面接とか説明会とかいった理由で欠席した学生には単位を認めないという措置も可能なはずです。

しかし、企業側も大学側も「そこまでの度胸はない」ようです。

では、何が問題なのかというと、そこは「大学の教育内容がキャリアに結びつかない」ということだと思います。理系の多くの学科は別ですが、文系に関しては、ほとんどの場合がそうなっています。

例えばですが、東洋哲学専攻の学生が、メーカーに総合職で入って営業に配属されるというようなことは、今でもあるようです。これは前述したように、職業教育は企業が担当するという前提で成り立つ話です。

反対に、大学で会計学を専攻した学生は、企業の経理部が敬遠するようなこともあります。つまり、業界や企業には「特殊な会計の考え方」があるので、「色のついた学生は困る」という発想法です。マーケティング専攻などの学生も、その企業の過去の成功から編み出した方法論を教え込む際には「むしろ別の専攻の方が白紙でいい」という感覚を持つ場合もあるようです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story