コラム

トランプのメキシコ訪問と移民政策の奇々怪々

2016年09月01日(木)16時30分

Henry Romero-REUTERS

<メキシコを訪問して大統領と共同会見までしたトランプだが、国境の「壁」の建設に関しては双方の意見の食い違いが露呈。直後にアリゾナ州で開催された支持者集会では、トランプの移民対策に「トランプファン」が大喝采。奇々怪々な選挙戦は続く>(写真は共同会見に臨んだトランプとメキシコのペニャニエト大統領)

 ドナルド・トランプ候補は、昨年6月に大統領選に立候補を表明して以来、「外遊」を計画したことが何回かありました。1つは、昨年12月にイスラエルを訪問しようとしたことがあります。ですがこの時は、ネタニエフ首相に面会を拒否されたことで訪問を断念しています。

 この時点でハッキリと「イスラム教徒の入国禁止」という「スローガン」を抱えていたトランプを、イスラエルが歓迎しなかったのは当然です。イスラエルは多民族、多宗教国家で、イスラエル国民の約17%がイスラム教徒であることを考えれば理解できることです。

 続いて、今年6月にはアイルランドへの訪問を計画しましたが、この時は計画が話題に上っただけで「人種差別主義者の入国反対」デモが発生し、とても入国できる雰囲気ではないということで断念しています。

 そのトランプが、今週8月31日にメキシコを訪問しました。ちゃんと首都のメキシコシティを訪れ、大統領府でペニャニエト大統領と会談し、共同会見までやったのです。

【参考記事】芸人も真っ青? 冗談だらけのトランプ劇場

 会見の中身は基本的に「西半球の繁栄と安全に関する協力」をすることで一致したというのが基本トーンで、「外交辞令」が主だったようです。ただ、会談後にトランプは「国境に建設する壁についても議論したが、費用の負担については話題に上らなかった」と話しています。

 一方、ペニャニエト大統領は、会談後のツイートで「トランプの発言は虚偽だ。自分は壁の建設費用についてメキシコは支払わないとハッキリ言った」と述べ、早速食い違いが出ています。

 このこと自体、かなり問題だと思いますが、もっと重要なのは、このメキシコシティ訪問の後に、トランプはアリゾナ州フェニックスで支持者を集めて大集会を開いたことです。事前に各メディアには「移民政策に関する主要な政策の発表」があると通告されていたこともあり、各ケーブルニュース局は特番を組んで対応しました。

 その「主要な政策」ですが、何とも奇妙なものでした。3つ特筆すべき点があったと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4

ビジネス

ECB、12月にも利下げ余地 段階的な緩和必要=キ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story