コラム

スキャンダル続く米民主党、それでもダメ男を見捨てない女性の伝統とは?

2011年06月10日(金)11時03分

 それにしても、アメリカの民主党では政治家のスキャンダルが続いています。1つは、2004年の大統領選でジョン・ケリーと一緒に副大統領候補として選挙戦を戦い、2008年にも予備選の序盤を戦ったジョン・エドワーズの問題です。共に弁護士だったエリザベス夫人とは、長男の事故死を受けて社会貢献のために政界入りを決意、常に夫婦で遊説を繰り広げる姿は、政界の理想的夫婦像と言われていました。

 ところが、エリザベス夫人は乳がんで長い闘病生活に入る中、エドワーズには「隠し子問題」が勃発したのです。夫人は、長男の事故死と同様に夫の裏切りに傷つきつつ、自分の死とも対決していった記録を感動的な自伝『Resilience(回復)』に残して昨年12月に死去しました。そのエドワーズは、愛人と隠し子の問題を社会から隠すために「大統領選挙資金を流用」して、愛人をホテルに住まわせたり、場合によっては公費で飛行機に乗せていたということが疑惑として持たれていました。

 今回は、6月3日にノースカロライナの大陪審(起訴を正式に決定するための陪審)が、この問題に関して正式に起訴することを決定しています。有罪となれば禁固30年という起訴内容で、一時は「爽やかな庶民派」として大統領を目指すかと言われたエドワーズの政治生命はこれでほとんど終焉を迎えたと言えます。

 そのエドワーズの「事件」を上書きするかのような「お粗末な」下半身スキャンダルが、同じ民主党の現役下院議員アンソニー・ワイナー(当選7回)の問題です。ワイナー議員は、連邦議会から転出してニューヨークの市長選に挑戦すると言われており、若手の民主党政治家としてニューヨーク地区のホープでした。

 そのワイナー議員ですが、ネット上で複数の(6名あるいはそれ以上)の女性と「バーチャルデート」を繰り返していたというのですが、保守派ブロガーの内偵によれば、何とも恥ずかしい写真をアップしていたり、かなりの「性癖」だったようです。涙ながらに会見したり、当初は自分のツィッターのアカウントが何者かにクラックされて変な写真をアップされたなどと、自分が被害者であるかのような弁明をしたり、ダメージコントロールも全く下手で、世間の怒りを買う始末です。

 今週の半ばには、議会下院の同僚議員たちからも「辞職勧告」がどんどん出される中、本稿の時点ではまだ「辞めません」と粘っているのですが、最終的には民主党の上層部も相当に怒っているようで、辞任は時間の問題でしょう。

 ここで注目されているのがワイナー議員と昨年7月に結婚したばかりの奥さんです。夫人の名前は、フーマ・アバディーン女史といって、実はヒラリー・クリントン国務長官の信任厚い秘書なのです。現在は、中東「民主化」の動向に対応すべく、この地域で積極的に個別の外交を続けているヒラリーですが、一連の中東外交には必ずアバディーン女史の姿が付き添っているようです。

 というのも、このアバディーン女史、インド人の父とパキスタン人の母の間に生まれ、サウジで育ち、後にはアメリカで学んで90年代にファーストレディーだったヒラリーに研修生として仕えてきたという運命的な女性で、将来はヒラリーの存在感を継承するのではなどという声もかかる俊英です。昨年のワイナー議員との結婚式も、クリントン夫妻が立会人になっており、ヒラリーもビルも「子供同然の身内」と言っているぐらいなのだそうです。

 スキャンダルの勃発する中で、アバディーン女史は妊娠していることが判明、世間の注目が集まる中で、彼女は一切沈黙を守りつつヒラリーと職務をこなしています。今週は国務長官の出張に同行してアブダビに行っているのですが、アメリカのメディアが追いかけても平然と長官と共に行動している姿は、益々注目されるようになりました。

 クリントン夫妻といえば、彼等も夫の「恥ずかしいスキャンダル」を経験しているわけで、実はワイナー議員はビル・クリントンに「どうしたら良いか?」相談をしているそうです。この問題については、モニカ・スキャンダルという大ピンチを乗り切った元大統領も「厳しく叱責」することしかできなかったそうですが、真相はどうでしょう? ただ、ワイナー議員の今後は、フーマ・アバディーン夫人の動向にかかっているわけで、彼女が夫をかばう側に立つのかどうかが、90年代のクリントン夫妻のスキャンダルに重なることで注目がされているのです。

 同じように、ジョン・エドワーズの場合も、夫人の死去に当たっては一家を代表して毅然と葬儀を仕切った長女のケイト・エドワーズさん(現在29歳、弁護士)が、今度はスキャンダルにまみれ、起訴というピンチに立った父親の側に付きっきりでサポートをしているのです。ケイトさんが父親を守りきれるかは分かりませんが、こちらも宿命的な家族の物語として、まだまだ注目がされることは間違いありません。

 アンソニー・ワイナー議員の場合も、ジョン・エドワーズの場合も、救いようのないスキャンダルの主役としての男性側よりも、何も言わずに側に立っているフーマ・アバディーン夫人、ケイト・エドワーズさんに少しずつ注目が集まってきているようです。

 ところで「ダメ男を捨てなかった」元祖のヒラリー・クリントン国務長官ですが、以前は「国防長官への横滑り」を狙っているという噂がありました。結局、ゲイツ国防長官の後継にはレオン・パネッタCIA長官という人事に落ち着き、女性初の米国防長官の線は消えています。これに代わって、今週あたりから囁かれているのは「世界銀行総裁」への転出説です。

 この噂が果たしてヒラリーの本心から出ているのか、それともヒラリー外交の影響力を低減させようという何者かの(例えば中東和平の当事者関係など)意図なのかは分かりません。いずれにしても、アバディーン女史とヒラリーという女性コンビの今後については、注目して見てゆく必要があるでしょう。この点から考えれば、ワイナー議員のスキャンダルなどは、「小さな話題」に過ぎないとも言えます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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