Picture Power

【写真特集】金融エリートたちの意外と普通な苦悩

GRANITE AND GLASS

Photographs by GEORGE NOBECHI

2020年05月23日(土)13時30分

【太一】「別の何かに挑戦できるくらい、ほかの才能があればよかったんだけど」と、自宅がある高層マンションのエレベーターで話した。彼は私の元後輩で、ずば抜けて優秀だった

<時には世間から悪者扱いまでされる金融業界だが、実際にはさまざまな葛藤やストレスを抱えて苦悩する普通の人々>

世界中の優秀で野心的な人々が重厚な建物で働き、とてつもない高給を稼ぐ──。世間から「1%の豊かなエリート」とひとまとめにされ、時に「悪者」扱いされる金融業界の人々だが、現実の人間模様はもっと複雑で、多くは重荷や葛藤やストレスを抱えて懸命に働いている。

何より彼らの輝ける日々は08年の金融危機で終わった。今や、桁外れの報酬を得る層はほんのひと握りだけ。古き良き時代が二度と戻らないと知りながら、彼らはなぜこの業界、そして東京に残るのか。

今回、私は東京の金融業界で働く人々の姿を撮った。実は私も数年前まで、この業界で働いていた人間だ。だが、ずっと感じていた居心地の悪さから抜け出し、夢だった写真家として生きる決心をした。

撮影に協力してくれたのは私のかつての同僚たち。彼らが感じている喜び、恐れ、不安、未来への希望を、可能な限り正確かつ誠実に写し出したつもりだ。その中で、本当は私と同じように別の夢に挑戦したいと考えたり、現状に行き詰まりを感じている人が少なくないことを知った。

それでも、彼らの多くは現在の職を捨てるというリスクは取れずにいる。待遇は以前ほどではなくともそれなりに恵まれ、家族との生活も安定しているからだ。東京という都市も、キャリア形成の場としてアジアのトップではなくなったが、安全で健全な生活を送れる環境という面で、捨て難い魅力を持っている。

現状に満足はしていないが、現状を捨てるほどの不満はない。甘えているつもりはないが、「自分にできることがほかにあるのか」という不安もある。東京の金融業界で見えたのは、そんな当たり前で普通の人間たちの姿だった。

――ジョージ野辺地

ppelite02.jpg

金融機関が入るオフィスビルのエレベーター


ppelite03.jpg

【アレックスと友加里】「たまに、楽園に閉じ込められているように感じるときもある」と、アレックスは言う。別の仕事をしてみたい気持ちもあるが、家族との生活を考えると踏み出せない


ppelite04.jpg

【ハミッシュ】「いい職といい給料を得て、それを手放すなと、父はよく言っていた。だから20年以上そうしたよ」と話す彼だが、現在では千葉で有機栽培の農家として生計を立てている


ppelite05.jpg

【エリック】職場で出会った妻との間に2人の子供を持つエリックは、日中は激務をこなすが、そのあとは可能な限り早く帰宅して家族と過ごす時間を持つようにしている


ppelite06.jpg

【えり】東京に住む家族も自身の仕事も、東京という街も好きだが、ニューヨークで働く恋人との遠距離恋愛はつらかった。結局、彼の元へ引っ越し、新しい仕事を始めることに

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story