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遊牧と定住の狭間に揺れて
Photographs by GO TAKAYAMA
遊牧と定住の狭間に揺れて
Photographs by GO TAKAYAMA
中国の西端に位置する新疆ウイグル自治区には数多くの少数民族が暮らす。雄大な天山山脈一帯で放牧生活を送るキルギス系遊牧民もその1つ。夏には標高の高い山の奥地で放牧し、冬になると麓に近い場所で越冬する彼らは、育てた羊を売って生計を立てている。
大草原での放牧と違って山岳地帯は草が乏しいため、羊飼いの男たちは一日中険しい山肌を駆け巡る。ゲルに残る女性もヤクの乳搾り、燃料となる羊のふんや「バルカン」と呼ばれる低木の収集、ラクダの冬毛を使った糸紡ぎなど休む間もなく働く。
11年以来、キルギス系遊牧民の撮影を続けている私は昨年春、夏の放牧地への移動に同行した。途中で雨に見舞われて羊が3頭いなくなり、2日間足止めを食らうなど計7日間を要したが、3家族分の羊とヤギ、馬、ラクダ、ヤクを移動させるのは山を熟知した地元民でなければ無理な仕事だと痛感した。
中国都市部が著しい経済発展を遂げるなか、そんな彼らの伝統的な暮らしにも都市化の波は容赦なく押し寄せている。かつてシルクロードの要衝として栄えたカシュガルから西の隣国キルギスに向けて建設された高速道路を通り、多くの物資が流入する。都市部から波及してきた不動産バブルに乗って、高層住宅の建設も相次いでいる。
人口増による羊肉の需要の高まりも、遊牧民の暮らしを変える一因だ。過剰な放牧で増えた羊が草を食べ尽くして環境問題を引き起こすため、政府は遊牧民の定住化政策を進めている。
キルギス国境近くの町ウルグチャットでも、山を下りて町で新生活を始める遊牧民の姿が数多く見られる。私が密着してきた遊牧民の一家は昨年、ウルグチャットに約5万人民元で高層住宅の3LDKを購入した。費用は羊50~60頭分。定住化政策による政府からの支援もあるが、裕福でない一家にとっては決して安い買い物ではない。
水道や水洗トイレ、暖房設備を備えた高層住宅は現代生活の象徴であり、それを所有することはある種の社会的ステータスとなっている。だが町には遊牧民が就ける仕事はほとんどなく、生活のために再び山へ戻る若者も少なくない。
定住と遊牧。相反する2つの生活様式のはざまで、遊牧民たちは時代の変化に適応することができるのだろうか。
――高山剛
Photographs by Go Takayama
撮影:高山剛
2008年、米オハイオ大学でフォトジャーナリズムと政治学の学士を取得。2010年から中国を拠点に中国辺境の変化と、そこに 暮らす少数民族のアイデンティティーをテーマに撮影を続けている。
<2016年7月26日号掲載>
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