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ブラジルを悩ますロバの野生化
Photographs by NADIA SHIRA COHEN & PAULO SIQUEIRA
ブラジルを悩ますロバの野生化
Photographs by NADIA SHIRA COHEN & PAULO SIQUEIRA
欧州大陸からブラジルにロバが連れてこられたのは16世紀のこと。気性が穏やかで働き者のロバはその後数百年間にわたり、水の運搬や農作業を担う重要な労働力として国の発展を支えてきた。
だが水道が敷設され、自動車やバイクが普及し、トラクターなどによる農業の機械化が進んだ20世紀半ば以降、その存在意義は薄れる一方だ。飼い主に捨てられた無数のロバが野生化した結果、最近ではブラジル北東部各地でトラブルを引き起こし、厄介者扱いされるようになってしまった。
食料を求めて、ロバがゴミ置き場をあさる光景は日常茶飯事。自分たちの集落からロバを閉め出して近隣の町に捨てに行く行為が問題となって、警察が出動したこともある。力が弱くて労働力になりにくい雌から捨てられるケースが多いことも、野生化したロバの繁殖を加速させている。
ロバが引き起こすトラブルの中でも特に深刻なのは、ハイウエーなどに侵入したロバによる交通事故だ。リオグランデドノルテ州では13年1月から15年6月までの2年半に動物と車両の接触による死亡事故が51件発生しており、大半はロバが原因とみられる。トラックにはねられたロバの死骸が路肩に転がっている光景も珍しくない。
行政も手をこまねいてきたわけではない。リオグランデドノルテ州当局は11年、ロバ肉を食用に加工して学校や刑務所での給食に使用したり、中国に輸出する案を検討した。しかしロバを食べる習慣がない国民の猛反発に遭い、撤回せざるを得なかった。
用済みになったロバに活躍の場を与えようとする取り組みもわずかながらある。バナナ栽培を手掛けるトロピカル・ノルデステ社は、バナナの木が並ぶ農園での力仕事にロバを活用。ロバをミツバチから守る防護服を作り、蜂蜜の運搬などに利用する養蜂農家もある。
ロバのミルクにも注目が集まっている。自然の抗生物質といわれる酵素のリゾチームが人間の母乳の2倍含まれており、リウマチ患者や牛乳アレルギーの子供にいいというのだ。
赤ん坊のイエス・キリストを背に乗せて運んだという言い伝えから、ロバはブラジルで神聖な存在としてあがめられてもきた。彼らが再び愛される存在となる日は来るのだろうか。
Photographs by Nadia Shira Cohen & Paulo Siqueira
<本誌2015年10月20日号掲載>
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