Picture Power

癌と闘う両親にカメラを向けて

A LIFE IN DEATH

Photographs by Nancy Borowick

癌と闘う両親にカメラを向けて

A LIFE IN DEATH

Photographs by Nancy Borowick

34年目の結婚記念日に寝室で抱き合う父ハウイーと母ローレル。2人が同時に末期癌と診断されるとは、以前なら想像もつかなかった(13年3月)

 2013年、私の両親は癌と闘っていた。母は20年近く乳癌の治療を受けていたが、そこへ12年末、父も膵臓癌と診断された。末期のステージ4だった。

 迫りくる死の恐怖に負けず、きつい痛みと苦しい抗癌剤治療に耐え抜く2人。私は両親の勇敢な姿を写真で残そうと思った。夫婦として冗談を言い合う日々から、患者と介護者として互いをいたわり合う様子まで、すべてをカメラに収めた。私の心の中にあったのは、両親を不憫に思う気持ちだけではなく、彼らに対する深い尊敬の念だ。

 死について語りたい人なんかいないだろう。誰もがいつかは自分も死ぬのだと分かっていても、その日が近づくまであえて考えないようにしている。でも私たち家族は語らなくてはならなかった。死ぬという意味を理解し、その日に備える必要があった。そしてそうすることで、生きるということの本当の意味を悟った。

 癌は私たち家族に試練を与えたが、それは一緒に過ごす時間の大切さを教えてくれる贈り物でもあった。闘病生活の中で私たち家族は、1秒たりとも時間を無駄にしたことはない。苦しい時も幸せな時も、笑いがあふれる瞬間も涙があふれる瞬間も、すべての写真が家族の歴史となった。

 父は癌を告知されてからちょうど1年後、13年12月にこの世を去った。母は34年間共に生きてきた夫を失った悲しみに浸る一方で、日に日に弱りゆく自分の体とも向き合わなければならなかった。私たち子供も同じだった。父を亡くした悲しみがまだ癒えないなか、今度は母の最期に備えるという現実が待っていた。

 私は父の死後も癌にあらがい続ける、たくましい母の写真を撮り続けた。母は自分という人間が癌患者としてだけ語られることを嫌がった。癌は自分の人生のほんの一部であり、克服すべき1つの状況にすぎないと、彼女は考えていた。

 父の死から1周忌を迎える前日、母は息を引き取った。

 癌は病に侵されている本人だけでなく、家族全員の闘いとなる。私たちの置かれた状況は特異だったかもしれないが、そこには普遍的な側面もあると思う。私たちのストーリーが、いま闘病生活を送っている人たち、その家族や友人らを少しでも勇気づけるものであってほしい。

――ナンシー・ボロウィック

Photographs by Nancy Borowick

<本誌2015年3月31日号掲載>


【お知らせ】

『TEN YEARS OF PICTURE POWER 写真の力』

PPbook.jpg本誌に連載中の写真で世界を伝える「Picture Power」が、お陰様で連載10年を迎え1冊の本になりました。厳選した傑作25作品と、10年間に掲載した全482本の記録です。

スタンリー・グリーン/ ゲイリー・ナイト/パオロ・ペレグリン/本城直季/マーカス・ブリースデール/カイ・ウィーデンホッファー/クリス・ホンドロス/新井 卓/ティム・ヘザーリントン/リチャード・モス/岡原功祐/ゲーリー・コロナド/アリクサンドラ・ファツィーナ/ジム・ゴールドバーグ/Q・サカマキ/東川哲也/シャノン・ジェンセン/マーティン・ローマー/ギヨーム・エルボ/ジェローム・ディレイ/アンドルー・テスタ/パオロ・ウッズ/レアケ・ポッセルト/ダイナ・リトブスキー/ガイ・マーチン

新聞、ラジオ、写真誌などでも取り上げていただき、好評発売中です。


MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中