Picture Power

男だけが消えた 旧ソ連の小さな国

No Man’s Country

Photographs by Julien Pebrel

男だけが消えた 旧ソ連の小さな国

No Man’s Country

Photographs by Julien Pebrel

夕暮れ時に牛を放牧する女性。母親(90)の面倒を見て暮らしている。夫と長男はロシアで働いていて、次男は兵役中、長男の嫁は実母の看病のため実家に戻った

 旧ソ連の辺縁地帯では、貧困と失業が蔓延している。アルメニアもそんな国の1つ。就労年齢に達した男性の実に9割が、仕事を求めてロシアやウクライナなど近隣の国へ季節労働者として出ていく。戻るのは仕事のない冬の間だけだ。ロシアへ行けば、アルメニアの3倍以上稼ぐこともさほど難しくない。当然のように、高校や大学を出たばかりの若者が次々に国を出ていく。ソ連の崩壊以来、こうした状態が日常化している。

 村にいるのは留守を預かる女たちがほとんど。夫も、兄も、父も、祖父も──働ける男の姿はない。残された女たちは手を取り合い、夫や父の帰りを待ちわびる。だが、女たちを待ち受ける現実は厳しい。孤独な出稼ぎ先で、「第2の家庭」をつくってしまう者が後を絶たない。帰ってきたはいいが、ロシアでHIVに感染し、妻やパートナーを2次感染させることもある。

 出生率の低下も深刻だ。男がみな国外で就労するため、若い女性の結婚相手が見つからない。91年のソ連崩壊時に350万人だった人口は今や300万人ほど。約100万人がロシアで暮らす。それでも女たちにできるのは、一心に待つことだけ。愛する者が戻る日を、ひたすら信じて。

Photographs by Julien Pebrel-M.Y.O.P. /Text by Anaïs Coignac

<本誌2014年1月28日掲載>

【お知らせ】
『TEN YEARS OF PICTURE POWER 写真の力』
本誌に連載中の写真で世界を伝える「Picture Power」が、
お陰様で連載10年を迎え1冊の本になりました。
厳選した傑作25作品と、10年間に掲載した全482本の記録です。
スタンリー・グリーン/ ゲイリー・ナイト/パオロ・ペレグリン/本城直季/
マーカス・ブリースデール/カイ・ウィーデンホッファー/クリス・ホンドロス/
新井 卓/ティム・ヘザーリントン/リチャード・モス/岡原功祐/ゲーリー・コロナド/
アリクサンドラ・ファツィーナ/ジム・ゴールドバーグ/Q・サカマキ/東川哲也 ほか


MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中