最新記事
シリーズ日本再発見

日本の分煙環境整備に、たばこ税は使われているのか

2021年10月01日(金)17時30分
西田嘉孝
屋外喫煙所

Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<10月1日のたばこ税増税によって、人気銘柄のいくつかがついに600円の大台に到達。その税収は広く国民のために役立っているが、屋外喫煙所の整備に使ってほしいという声も出ている>

ここ数年は毎年たばこの値上がりがニュースになるが、今年も10月1日に多くの銘柄が値上げとなった。

たばこ税の税率は2018年度の税制改正によって見直され、2018年10月から今年10月にかけて段階的な増税が行われてきた(加熱式たばこに関しては、税率引き上げが2022年10月まで行われる)。

結果、たばこ税はこの3年間で合計して1箱60円(1本あたり3円)ほどの増税となり、人気銘柄のいくつかは今回の増税を受けた価格改定で600円にまで値上がりした。

銘柄にもよるが、例えば一般的な紙巻きたばこの場合、喫煙者の税負担は6割以上にもなる。しかし、そんなたばこ税がどのように使われているかについては、非喫煙者はもちろん、愛煙家ですらよく知らないのではないだろうか。

毎年2兆円以上、たばこ税の行く先は?

財務省が公表しているたばこ税収額の推移を見ると、ここ数年のたばこ税収額は年間約2兆円程度で推移している。たばこ税は「国たばこ税」と「地方たばこ税」にほぼ二等分され、地方たばこ税は「道府県たばこ税」と「市町村たばこ税」として分配される。

特筆すべきは、こうしたたばこ税が使いみちの特定されない「普通税」であること。ちなみに、たばこ税の一部は「たばこ特別税」として、旧国鉄の債務処理に充てられていたりもする。つまり、喫煙者・非喫煙者に関係なく、広く日本国民の暮らしを支えるためにあらゆる使い方ができる税金なのだ。

一方、たばこ税を負担する喫煙者の肩身はどんどん狭くなっている。昨年の4月1日には改正健康増進法によって屋内施設が原則禁煙に。法令では一部飲食店などで喫煙室の設置が許可されているものの、多くの施設から喫煙者が閉め出される結果となった。

さらにはコロナ禍によって閉鎖された屋外喫煙所も少なくなく、いまや日本は中でも外でもたばこの吸えない国になったかのようだ。

「喫煙者が減ったと言っても国民の2割弱は愛煙家ですから。喫煙者にも非喫煙者にもメリットがあるようなことにたばこ税を使ってほしい。具体的には、たばこ税のうちの1%でもいいので、分煙環境の整備に使ってもらいたいというのが私たちの願いです」

そう話すのは、全国たばこ販売協同組合連合会の統括部長、武田基樹さん。

同連合会が先頭に立って声を上げ続けたこともあり、自民党の令和3年(2021年)税制改正大網では、「地方たばこ税の活用を含め、地方公共団体が駅前・商店街などの公共の場所における屋外分煙施設等のより一層の整備を図るよう促すこととする」という一文が入った。

武田さんらが強く希望する「喫煙者も非喫煙者も気持ちよく生活できるような分煙環境の整備」。そこにたばこ税の一部を使うことは、決して愛煙家の身勝手な要求ではないだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P横ばい、インフレ指標や企業決算

ワールド

メリンダ・ゲイツ氏、慈善団体共同議長退任へ 名称「

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、今週の米経済指標に注目

ワールド

原油価格上昇、米中で需要改善の兆し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 5

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 8

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 9

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中