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シリーズ日本再発見

仏壇・お墓から「機械式納骨堂」へ!? 日本の供養が変わる

2017年07月29日(土)17時57分
熊谷祐司

利便性の高い「マンション」のような納骨堂

そこで注目を集めているのが、納骨堂という供養のかたちだ。遺骨を納めた厨子(ずし)を、一定の金額を払い管理してもらうスタイルである。コインロッカーのようなスペースに、位牌や遺影、厨子などを置き、そこを親族や関係者がお参りする仕組みだ。

従来の墓地を「戸建て」とすれば、納骨堂は「高層マンション」のようなイメージだろうか。戸建てよりも価格を安価に設定しやすいので、アクセスのいい場所に設置する敷居が低い。また、一定の管理がなされているとはいえ野ざらしの墓石とは違い、納骨堂は屋内に設けられることが多い。雨や虫刺されなどを気にすることなく、お参りできるメリットもある。

利便性のよさも手伝い、年に1度どころか、毎月、毎週のようにお参りに訪れる人もいるという。確かにそれなら、自宅の仏壇代わりに納骨堂を、という移行もスムーズにできるのかもしれない。

さらに最近では、立体駐車場のシステムを援用した機械式納骨堂も台頭してきている。参拝者が訪れると、該当する厨子が参拝スペースまでベルトコンベアーで運ばれて来る仕組みだ。普段は厨子が、バックヤードで保管されている。

名古屋市では今年、万松寺が1万以上の厨子を管理できる機械式納骨堂「白龍館 彩蓮(さいれん)」をオープン。参拝者の確認には生体認証が採用されていて、身一つで訪れればそのままお参りできるようになっており、実に手軽だ。

複数用意された参拝ブースのいずれかの場所に、ランダムで厨子が運ばれて遺影や戒名が表示される。墓石や「ロッカー式」納骨堂のような「定位置」はないが、故人を偲び手を合わせることが目的なら理には適っているように思えるスタイルだ。立地の良さも売りの1つ。お参りに来る側の子や孫に負担をかけたくないと、大規模納骨堂を生前購入する人もいるという。

ただし、この機械式納骨堂に対しては、「行き過ぎでは?」という批判の声もある。エレベーターのように定期的なメンテナンスが必要で、改修に伴うコストも負担しなければならない。そもそもこの形態では墓所というよりも倉庫であり、もはや宗教活動とは呼べず課税対象になるのではないか、という見方もある。

実際、機械式納骨堂の場合、開設には数億円単位のコストが発生するとみられるだけに「稼働率」が重要になってくる。「空き家」が多いほど見合わない「ビジネス」になる。

結局、運営する寺院の宗派だけでなく、仏教の他宗派はもちろん、キリスト教など他宗教の教徒の遺骨までも受け入れ可能にしている現状がある。そこまでしないと、「埋まらない」のだ。

住環境や家族構成の変化、あるいは経済効率の観点から考えれば、消え行く仏壇や墓地、納骨堂の拡大は必然な面もあるのかもしれない。

だが、日本人にとってそもそも宗教とは何か、信仰とは何か、供養とは何なのか、そうした根源的な問いを改めて考えさせられる事象でもあるだろう。

【参考記事】仏教的かキリスト教的か、イスラム教的か、混乱させる写真

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