コラム

次の「想定外」はゾンビ襲来?

2011年05月27日(金)13時04分

 日本政府や東京電力の想定の甘さと危機意識のなさを思い知らされるニュースが続く中、最悪の事態に備えて万全の危機回避策を提示するアメリカの政府系機関の対応が、ネット上で話題になっている。

 感染症対策の専門機関、米疾病対策センター(CDC)が想定する「最悪の事態」とは、アメリカの都市でゾンビが発生するという悪夢のシナリオ。ゾンビは何らかの理由で命を取り戻した「生ける死体」で、ゾンビに襲われて死んだ人間もやがて蘇ってゾンビになるため、爆発的に増殖する。

 もちろんホラー映画の中だけの存在(のはず)だが、CDCはゾンビから生き延びる方法をサイト上で大まじめに論じている。最初の数日間を自力で生き延びるために水や食料、薬を用意しておくのは当然のこと。それに加えて、運転免許証のような重要書類のコピー、家族全員分の着替えと毛布、救急箱(ゾンビに頭を噛まれたら絆創膏くらいでは役に立たないだろうが)、ナイフや石鹸、タオル、ラジオなどを入れた緊急避難袋を常備する。庭先にゾンビが現れた場合の行動(どこに逃げるか、誰に電話するかなど)を家族で話し合っておくことも推奨している。

 自宅は早晩、ゾンビに乗っ取られるだろうから、外に逃げた家族が再び落ち合う場所を、自宅近くと遠方の2カ所決めておくことも重要だという。「空腹のゾンビは食糧(つまり、脳みそ)を手に入れるまで執拗に追いかけてくるので、素早く街を出なくてはいけない。行き先と、そこに至る複数のルートを事前に決めておけば逃げ通せる」と、CDCは書いている。

「2011年5月21日に世界が終焉を迎える」という予言がまことしやかに囁かれていた時期と重なったこともあって、CDCのゾンビ対策マニュアルはアメリカのネットユーザーの間に瞬く間に広がった。そして、それこそCDCの狙いだ。CDCが訴えるゾンビ対策の多くは、ハリケーンや地震、洪水といったより現実味の高い災害への対処法と共通しており、ゾンビというキャッチーなテーマを通じて、人々の危機意識を高め、災害への備えを見直すきっかけにしてほしい、という思惑があるわけだ(実際、CDCのサイトへのアクセスは激増している)。

 といっても、CDCはゾンビ危機を「注目を集めるための単なるネタ」と決めつけているわけではなさそう。万が一、本当にアメリカでゾンビが蘇ったら、CDCは医療チームと初動要員を直ちに派遣して被害者を救い出す、と宣言している。被害地域の孤立化や隔離作戦によって、爆発的なパンデミックを阻止する用意もできているという。

 なんとも心強い! パニック映画さながらの原発の暴走が現実に起きるのを目の当たりにした今となっては、何が起きても不思議ではない。今の日本にゾンビが現れたら、政府は「想定外だった」と言い訳しながら、「安全です」と繰り返しそうだが。

──編集部・井口景子

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ブルー・アウル株再び下落、資産売却・解約停止で動揺

ワールド

ブラジル経済活動指数、25年は前年比2.5%上昇 

ビジネス

全国コアCPI、1月は+2.0%に減速 総合は22

ワールド

北朝鮮の朝鮮労働党大会が開幕、金総書記「経済は不況
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    中道「大敗北」、最大の原因は「高市ブーム」ではなかった...繰り返される、米民主党と同じ過ち
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 5
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 6
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 7
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 8
    ディープフェイクを超えた「AI汚染」の脅威──中国発…
  • 9
    カンボジア詐欺工場に「人身売買」されたアフリカ人…
  • 10
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 3
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 4
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 5
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 8
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story