コラム

アカデミー賞よりクリエイティブなレゴの「深い世界」

2011年02月14日(月)15時46分

 1月25日、第83回アカデミー賞の作品賞候補が発表された。アメリカのメディアは例年通り、候補作や監督、俳優などに関するニュースを取り上げていて、表彰式までにその盛り上がりは最高潮に達するだろう。そんな中、アカデミー賞を題材にした、ある「作品」がいくつかのメディアで密かに話題になっている。ブロックのおもちゃ、「LEGO(レゴ)」の作品だ。
 
 カリフォルニア州に住むアレックス・エイラーは、今年のアカデミー賞候補10作品で記憶に残ったシーンを、独自の視点からプラスチックのブロックおもちゃ「レゴ」で再現した。レゴブロックを組み合わせて製作された彼の作品は、独特の雰囲気や世界観をもち、その高い完成度が注目されている。その感性に富んだ創作は......。
 

socialnetwork.jpg kingsspeech.jpg
『ソーシャル・ネットワーク』        『英国王のスピーチ』    

blackswan.jpg thefighter.jpg 『ブラック・スワン』          『ザ・ファイター』  
inception.jpg kidsareallright.jpg 『インセプション』         『キッズ・オールライト』
127hours.jpg truegrit.jpg 『127時間』           『トゥルー・グリット』
toystory3.jpg wintersbone.jpg 『トイ・ストーリー3』         『ウィンターズ・ボーン』


 作者のエイラーは、「サイズによってまちまちだけど、1つのシーンを30分~1時間くらいで作った」と言う。「例えば『インセプション』は、廊下全体を作らなければいけなくて、1時間かかった。『英国王のスピーチ』では必要な要素が、1人のキャラクターと壁だけだったから、10分で完成した」
 
 最も難しかった部分は? との質問には、「それぞれのキャラクターを正確に描写するために顔、胴体、髪の部品を見つけることだった」と語る。「『トゥルー・グリット』では眼帯をした男が必要だったけど、ラッキーなことにレゴ社から販売されているちょうどいい顔を見つけることができたよ」
 
 エイラーは現在、カリフォルニア州にある大学の大学院で映画脚本を学んでいる。「映画と無関係というわけではないんだ」と、彼は言う。さらに彼は、映画史に残る作品のシーンもレゴで再現した。
 

pychosized.jpg shiningsized.jpg
『サイコ』               『シャイニング』


 デンマークに本社があるレゴ社は、プラスチックのブロックで作ることができるワニのような動物から、お城、警察の護送車までを、主に子供をターゲットとして販売している。だがエイラーの作品を見ても分かる通り、レゴブロックは決して子供だけのおもちゃではない。世界中の大人たちが、レゴブロックを使って「芸術的」ともいえる作品を制作し、インターネットで公表したり、個展を開いたりしている。そのレベルはおもちゃの域を超え、レゴブロック・アーティストと呼ばれる芸術家も存在するほどなのだ。
 
 ここ日本でもレゴの人気は非常に高く、今、新しい試みが始まっている。史上初めてとなる日本発のレゴ商品が世界中で販売されることになった。何が新しいかと言うと、レゴ公認のウェブサイト「LEGO CUUSOO」で日本の一般ユーザーからアイデアを公募し、サイト上で人気投票を実施。1000票を獲得してデンマークのレゴ社で商品化することが決まれば、その商品は世界に向けて発売されることになる。
 
 その第1号として商品化されたのは、「しんかい 6500」だ。「しんかい 6500」は、世界一の潜水深度(6500メートル)を誇る有人潜水調査船。その調査船を413個のレゴブロックで再現しており、2月17日に発売が開始されるという。ネット公募で商品化するというのもまた、レゴにとって世界初の試みだ。
 
 日本から世界に発売する商品のアイデアは今もまだ募集中だ。ネット上の投票でファンの支持を受けることができれば、自分のアイデアを商品化するのも夢ではない。
 
 オスカー候補作のような創作から日本発の有人潜水調査船まで、レゴはさらにクリエイティブな世界をみせてくれそうだ。
 
――編集部・山田敏弘

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、和平案の枠組み原則支持 ゼレンスキー氏

ビジネス

米9月PPI、前年比2.7%上昇 エネルギー高と関

ビジネス

米中古住宅仮契約指数、10月は1.9%上昇 ローン

ビジネス

米9月小売売上高0.2%増、予想下回る 消費失速を
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story