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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
日本のドラマは海外でも通用する
これまで、私の周りで日本のテレビドラマについて興奮気味に語りだす外国人と言えば、アジア人ばかりだった。だから今週、東京で開かれた「国際ドラマフェスティバル in TOKYO 2010」のシンポジウムでフランスのテレビ関係者たちが日本のドラマについてアツく語るのを聞いて、ちょっと驚いた。彼ら曰く、日本のドラマはクオリティーが高くてとても魅力的。「輸出しないことがびっくり」だそうだ。
日本のドラマの海外進出と言えば、現在もアジア地域がほとんど。しかも、その「輸出」は正規ルートではなくネットでの違法ダウンロードや海賊版DVDによるものが大きい。韓国では地上波での日本ドラマ放送は禁じられていたり(04年にケーブルテレビと衛星放送での放送のみ解禁)、中国では「規制は比較的緩やか」(JETRO)なものの、ネットでならほぼリアルタイムで無料で見られるため、日本のドラマ輸出はビジネスとしては確立されていないのが現状だ。
一方でここ数年、アジアで人気急上昇中なのが韓国ドラマ。東北新社の沈成恩(シム・ソウン)氏によると、韓国は政府による支援や放送関係者の地道な番組売り込みもあって、近年は「テレビ番組輸出国になりつつある」という。08年度の総務省推計によると、日本から輸出されるテレビ番組の輸出総額は92.5億円で、そのうちドラマはたった11.7%(アニメが約50%)。韓国の06年のテレビ番組輸出総額も約100億円と同規模だが、価格競争の面で日本は韓国に劣っているというから、日本ドラマよりも安くて多くの韓国ドラマが世界に出回っているといえるだろう。
そんななか、日本のテレビドラマの海外進出を目指して開催されたのが「国際ドラマフェスティバル in TOKYO」だ。今年で4回目を迎えたこのフェスティバル、主催者には民放各社やNHKなどの主要メディア、協賛者には総務省や経産省が名前を連ねる。広告収入が減少するなか売り上げを海外にも求めたいメディアと、ドラマによるソフトパワーで諸外国に遅れを取りたくない政府が、日本ドラマの海外輸出に積極的に乗り出したというわけだ。
■外国人が『龍馬伝』より『JIN-仁-』を好む理由
橘恭太郎役で出演した小出恵介(10月26日、千代田放送会館)
10月25日には、日本制作のテレビドラマから日本人審査員が選ぶ「東京ドラマアウォード」各賞と、アジア8カ国から30人のバイヤーたちが選ぶ「アジア賞」の受賞式が開催された。今年は、「東京ドラマアウォード」の連続ドラマグランプリと「アジア賞」のどちらも、09年10月から放送された大沢たかお主演のドラマ『JIN-仁-』(TBS)が獲得。『JIN-仁-』は、大学病院の脳外科医・南方仁(大沢たかお)が江戸時代にタイムスリップして満足な医療器具も薬もないなかで人々の命を救うというストーリーで、勝海舟や坂本龍馬らも登場する医療SFの時代劇だ。このドラマは、10月に仏カンヌで開かれた世界最大のコンテンツ見本市MIPCOMで、主にヨーロッパの審査員が「最も買いたい日本ドラマ」を選ぶ「MIPCOMバイヤーズ・アウォード」も受賞。今回のフェスティバルと合わせて3冠に輝いたことで、日本、アジア、ヨーロッパの業界人らすべてに「最も売りたい・買いたい日本ドラマ」と評価された。
最終回の平均視聴率は25.3%と日本で大ヒットした『JIN-仁-』が、外国人にもウケるのはなぜなのか。「国際ドラマフェスティバル」のシンポジウムで日本ドラマを高く評価していたThe WITのバージニア・ムスラーCEOに聞いてみた。フランスに拠点を置くThe WITは、世界各国のテレビ番組の情報を収集・分析する専門機関だ。
40カ国以上の番組を分析し、世界の主要メディアに番組制作上のヒントを与えているムスラーがみる『JIN-仁-』の魅力とは、「主人公の際立った存在」だという。主人公が強力だと、視聴者は彼の運命や冒険を追いかけることでドラマにどんどん見入っていく。特に主人公が現代から歴史にタイムスリップする『JIN-仁-』では、歴史を知らない外国人でも南方仁に導かれるようにして、歴史の世界に入っていけるという。同じ時代劇の『龍馬伝』(「東京ドラマアウォード」の連続ドラマ優秀賞を受賞)も面白かったが、大河ドラマは歴史についての予備知識があったほうが楽しめるため『JIN-仁-』の方が入り込みやすかったという。さらに、「医療もの」はどの国でもドラマがヒットする鍵だと教えてくれた。
■日本ドラマの魅力は「登場人物の二面性」
一方で、今回の「アジア賞」もカンヌでの「MIPCOMバイヤーズ・アウォード」も、対象作品はすべて日本ドラマで、海外ドラマと競って受賞したわけではない。日本でも「趣味は海外ドラマ鑑賞です」という人が増えているなか、日本ドラマは海外ドラマと比べて「劣る」のだろうか。
ムスラーによると、どうやらそうではないらしい。彼女いわく、日本ドラマが海外で視聴されていないのは「クオリティーの問題」ではなく「売り込み方が足りないから」。米ドラマは制作費が膨大にかかるため、海外に輸出しないとモトがとれない。そのため激しい売り込み合戦を仕掛けてくるが、日本ドラマは国内市場で制作費を回収できるため、そもそも海外輸出に対するモチベーションが低かったという。「ドラマのクオリティーはどれだけの制作費をかけられるのかにもよる」ため、一概に海外ドラマと日本ドラマを比べることはできない。だが、例えば「制作費が莫大なNHKの大河ドラマのクオリティーは、米ドラマと同レベル」だそうだ。
ムスラーが考える日本ドラマの魅力とは、他国のドラマに比べてストーリーが多彩で、登場人物の人物像が複雑なこと。例として現在放送中の『黄金の豚』(日本テレビ)を挙げ、主人公の堤芯子(篠原涼子)は会計検察庁に勤めながら、元詐欺師だと指摘する。ヨーロッパのドラマでは、登場人物に裏の性格や生活をもたせる二面的な見せ方はあまりないから、日本ドラマは面白いという。さらに、日本のドラマは10~11話くらいで終わってしまうため、長期にわたるシーズンものが多い海外にはなじまない、固定ファンを作りにくい、といった問題がバイヤー側から指摘されるなか、ムスラーはこれを強みだとも考える。長期間の放送を視野に制作する海外ドラマは失敗が許されないため、ストーリーやキャラクター設定が正攻法になりがちだからだ。
とはいえ、ヨーロッパ諸国の中でも日本のアニメや漫画の人気がとりわけ高いフランスでさえ、日本のドラマについてはバイヤーがやっと知る機会を得て、「気になり始めたところ」だという。かつてドラマ『おしん』が、現在はアニメや漫画が海外に日本の魅力をアピールしているように、日本ドラマが世界を熱狂させる日は来るのだろうか。「日本のドラマは海外でも通用する」というお墨付きを得た今、あとは日本の苦手科目、外国へのセールス次第かもしれない。
――編集部・小暮聡子
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