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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
渦中のモスクを何と呼ぶか
アメリカのモスク(イスラム礼拝所)論争が過熱している。9・11テロが起きたニューヨークの世界貿易センタービル跡地(グラウンド・ゼロ)近くのモスク建設計画をめぐって、今週22日には現地で賛成・反対の両派がデモを繰り広げた。反対派はテロ実行犯がイスラム教徒だったことを強調し、賛成派は「信教の自由」などを訴えている。
このモスクを論じるとき、その呼び方に個人や組織の立場がはっきり現れる。本誌デービッド・グラハム記者の分類に少し補足しながら、実際に使われているモスクの呼称をいくつか紹介しよう。
1.The Ground Zero Mosque
ずばり、グラウンド・ゼロ・モスク。建設予定地はグラウンド・ゼロから2ブロック離れているが、あえて直接結び付けてこう呼ぶ。「テロ現場にモスクが建つ」というニュアンスが刺激的なためか、サラ・ペイリン前アラスカ州知事ら反対派が好んで使う。賛成派には思いつかない言葉だろう。賛否は別として、短くて分かりやすいため記事の見出しに使うメディアも多い。
2.The 'Ground Zero Mosque'
「グラウンド・ゼロ・モスク」とカギカッコが付く感じで、いわゆる──というニュアンスがある(日本の保守系メディアが「いわゆる従軍慰安婦」と書くようなもの)。その内容を認めているわけではないという書き手の距離感を示し、客観報道を標榜するメディアもよく使う。短くて見出しに書きやすいという意味では、1番と同じく便利な表現。
3.Park51
パーク51。モスクを含むコミュニティーセンター計画の公式な略称。現地の地番に基づいた、やや気取った名前。モスクの呼称にこだわる米ヤフーニュースの記者マイケル・カルデロンが意識的に使うが、一般にはあまり普及していない。
4.Mosque Near Ground Zero
グラウンド・ゼロ近くのモスク。2番より正確だが、ややまどろっこしい。ニューヨーク・タイムズ紙はこの手の控えめな表現を使う。同紙は、建設予定地がグラウンド・ゼロから2ブロック離れているという事実を必ず記事の中で説明するという。「この議論が強い政治色を帯びるなか、正確を期すことが重要だとわれわれは考えている」と、同紙の編集者は米ヤフーニュースに語っている。さらに、「グラウンド・ゼロ・モスクと呼ぶことは、モスクが世界貿易センター跡地に建つという誤った印象を与える」とも言う。この生真面目さに敬意を表したい。
5.Mosque in Lower Manhattan
マンハッタン南部のモスク。4番よりさらに無難で、グラウンド・ゼロがらみの否定的なニュアンスを含まない表現。ニューヨークのマイケル・ブルームバーグ市長やオバマ大統領はこの路線だ。
6.The Ground Zero Terror Mosque
グラウンド・ゼロ・テロモスク。モスクをめぐる今の論争はばかげていると考える皮肉屋が使う。
7.Obama's Mosque
オバマのモスク。これも冗談──と思いきや、公的な場で実際に使っている人がいた。フロリダ州の共和党知事候補リック・スコットが、自分のテレビ選挙広告にこのタイトルを付けた。オバマ大統領がモスク建設支持と受け止められる発言をしたことを受けたものだろう。「大統領、グラウンド・ゼロはモスクを建設してはいけない場所です」などと語る30秒のメッセージは、対立候補にも地元フロリダ州にも一切触れない不思議な選挙広告だ。
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それにしても、一部のイスラム過激派がテロを起こしたからといってイスラム教そのものを目の敵にするのは、やはりおかしい。北朝鮮が拉致事件を起こしたからといって在日朝鮮人を排斥するようなものだ。
──編集部・山際博士
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