コラム

カジノに懸けたシンガポール(1/2)

2010年07月06日(火)02時05分

 6月23日、シンガポールでカジノ総合リゾート「マリーナ・ベイ・サンズ(MBS)」が正式に開業した(一部は4月に先にオープンしていた)。先に、南部セントーサ島にユニバーサルスタジオと共にオープンしていた「リゾートワールド・セントーサ(RWS)」に次いで2つ目になる。

 これでシンガポールのカジノ・リゾートが出そろった。観光客数の低迷に頭を悩ませた政府は、このカジノ事業に観光立国としての生き残りを懸けていた。MBSのトーマス・アラッシCEOは、月に7万人、年に1800万人の来場者を見込んでいると自信を見せている。

 香港のディズニーランドやマカオのカジノ建設ラッシュなど、アジア各国による観光客獲得競争に一歩遅れをとっていたシンガポール。法律を改正してまでカジノ開発に焦点をしぼったのは、経済的に好調な中国からの観光客を惹き付けたいという狙いがあった。

 この国家的なカジノ計画のはじまりは、カジノ管理法案がシンガポール国会を通過した06年2月に遡る。それまでカジノは法律で禁止されていた。

 政府が認可すると発表した2枠のカジノライセンスを巡り、カジノ大手19社が誘致計画などをプレゼンして競い合った。最終的には、まず06年5月にカジノ大手ラスベガス・サンズが、金融街近くのマリナ・ベイで、シンガポール史上初となるカジノ・リゾート開発のライセンスを獲得。そして同年12月には、マレーシアに拠点を置くリゾート開発大手ゲンティン・インターナショナルが、セントーサ島での国内2つ目となるカジノ・リゾート開発のライセンスを認められた。

■実はカジノに怯えるシンガポール

 ただカジノ建設を観光産業の起爆剤にしたいという思惑の裏で、政府は国内において大きなジレンマを抱えることになった。

 政府が望んでいるのはこんな光景だ。中国本土からの観光客でカジノフロアーは連日大盛況で、マカオ・カジノのように中国人ハイローラーが湯水のごとく大金を落とす。だがそこには、普通のシンガポール人の姿はどこにも見当たらない----。

 シンガポールでは過去にも何度か、カジノ建設案が浮上している。02年の経済審理委員会でも賭博施設の開発が検討されたが、リー・シェンロン財務相(現首相)は「(シンガポール国民に)ギャンブル依存症が増えるリスクがある。また、組織犯罪やマネーロンダリングにつながる」と主張。社会不安を引き起す可能性があり、シンガポールの徹底した統制社会への脅威、ひいては建国以来45年間続く人民行動党(PAP)体制の崩壊につながりかねないという警戒感を示して、建設を見送ったことがあった。(つづく

**カジノに懸けたシンガポール(2/2)


――編集部・山田敏弘

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

FIFAがトランプ氏に「平和賞」、紛争解決の主張に

ワールド

EUとG7、ロ産原油の海上輸送禁止を検討 価格上限

ワールド

欧州「文明消滅の危機」、 EUは反民主的 トランプ

ワールド

米中が閣僚級電話会談、貿易戦争緩和への取り組み協議
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story