コラム

Newsで英語:ユーロ危機「使者を撃つな」

2010年05月24日(月)19時16分

【Don't shoot the messenger】

メッセンジャーを撃つな──悪い知らせを持ってきた使者に怒りをぶつけても、問題の解決にはつながらないという意味の決まり文句。


 またか、という感じだ。国家が金融市場の動きに翻弄されているとき、政治家は往々にして市場に歯向かおうとする。ギリシャ財政危機に端を発した市場不安を受けて、ドイツ政府は先週、ユーロ圏諸国の国債などの空売りを禁止した。

 この空売り禁止が「メッセンジャーを撃つ」行為だとして、欧米の主要メディアがこぞって批判している。

 空売りとは、自分が持っていない株や債券をよそから借りてきて売ること。売った後でその値段が下がれば、安い値段で買い戻せるので儲けることができる。素人感覚からするとうさんくさいが、空売りには市場を活性化させるメリットがあるとされる。
 
 ユーロ圏の国債などが空売りされて市場が不安定になっているとしても、それはギリシャなどの国家財政や通貨ユーロへの信用が揺らいでいることを知らせる市場からのメッセージだ。根本的な問題を直視せずに、メッセージを伝える使者を攻撃しても意味がないというのが、大方の論調である。

 ウォールストリート・ジャーナル紙の社説の見出しは「Germany Shoots the Messengers(ドイツ、使者を撃つ)」。エコノミスト誌は、ドイツを含むヨーロッパの政治家shoot-the-messenger syndrome(「使者を撃つ」症候群)が広まっていると指摘。通貨ユーロの急落を招いた元凶だとして、投機家やヘッジファンドや格付け会社に責任をなすり付ける政治家を批判している。

 こうした規制は効果が薄いだけではなく、市場全体に悪影響を与える。実際、ドイツの空売り禁止を受けて、ユーロが急落した。ドイツの銀行が国債がらみのリスクを大量に抱えているのではないかとの憶測も流れた。拙速な政策変更がかえって国債市場の信用を揺るがしかねないと、フィナンシャルタイムズ紙は警告する。

■オバマが「撃った」のはiPad

 最近「メッセンジャーを撃った」のはドイツだけではない。バラク・オバマ米大統領もやり玉にあがった。エコノミスト誌は13日、ずばり「Don't shoot the messenger」という見出しでオバマを批判した。

 問題の発言は9日、大学生向けの演説の中で出た。iPodやiPadをはじめとするデジタル機器のせいで「情報は人々に力を与えたり人々を(抑圧から)解放する道具ではなく、気分転換や気晴らし、娯楽の道具になった」と、オバマは述べた。新しいテクノロジー、新しいメディアを嘆いてみせたのだ。

 多機能携帯電話ブラックベリーを愛用し、インターネットを活用した選挙戦で大統領になったオバマがデジタル機器を批判するのはおかしな話。エコノミスト誌はそう皮肉ったうえで、テクノロジーは使い方次第で良い情報も悪い情報も伝えるが、総じて民主主義を強化する傾向があると指摘。オバマのデジタル批判は間違っていると断じている。

 つまり、デジタル機器は人間の本質を超えることはないという意味でメッセンジャーにすぎない、ということなのだろう。

 同誌の論説は、ごもっとも。しかし「iPadであなたはもっと馬鹿になる」と言われると、それはそれで妙に納得してしまうのだが。

──編集部・山際博士
 

このブログの他の記事を読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ米大統領、次期FRB議長にウォーシュ元理事

ワールド

シリア暫定政府、クルド勢力と停戦合意 統合プロセス

ビジネス

英住宅ローン承認件数、12月は24年6月以来の低水

ビジネス

ユーロ圏GDP、第4四半期は前期比0.3%増 予想
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 6
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 7
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 8
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 9
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 10
    配達ライダーを飲み込んだ深さ20メートルの穴 日本…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 8
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 9
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story