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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
Newsで英語:ユーロ危機「使者を撃つな」
【Don't shoot the messenger】
メッセンジャーを撃つな──悪い知らせを持ってきた使者に怒りをぶつけても、問題の解決にはつながらないという意味の決まり文句。
またか、という感じだ。国家が金融市場の動きに翻弄されているとき、政治家は往々にして市場に歯向かおうとする。ギリシャ財政危機に端を発した市場不安を受けて、ドイツ政府は先週、ユーロ圏諸国の国債などの空売りを禁止した。
この空売り禁止が「メッセンジャーを撃つ」行為だとして、欧米の主要メディアがこぞって批判している。
空売りとは、自分が持っていない株や債券をよそから借りてきて売ること。売った後でその値段が下がれば、安い値段で買い戻せるので儲けることができる。素人感覚からするとうさんくさいが、空売りには市場を活性化させるメリットがあるとされる。
ユーロ圏の国債などが空売りされて市場が不安定になっているとしても、それはギリシャなどの国家財政や通貨ユーロへの信用が揺らいでいることを知らせる市場からのメッセージだ。根本的な問題を直視せずに、メッセージを伝える使者を攻撃しても意味がないというのが、大方の論調である。
ウォールストリート・ジャーナル紙の社説の見出しは「Germany Shoots the Messengers(ドイツ、使者を撃つ)」。エコノミスト誌は、ドイツを含むヨーロッパの政治家に shoot-the-messenger syndrome(「使者を撃つ」症候群)が広まっていると指摘。通貨ユーロの急落を招いた元凶だとして、投機家やヘッジファンドや格付け会社に責任をなすり付ける政治家を批判している。
こうした規制は効果が薄いだけではなく、市場全体に悪影響を与える。実際、ドイツの空売り禁止を受けて、ユーロが急落した。ドイツの銀行が国債がらみのリスクを大量に抱えているのではないかとの憶測も流れた。拙速な政策変更がかえって国債市場の信用を揺るがしかねないと、フィナンシャルタイムズ紙は警告する。
■オバマが「撃った」のはiPad
最近「メッセンジャーを撃った」のはドイツだけではない。バラク・オバマ米大統領もやり玉にあがった。エコノミスト誌は13日、ずばり「Don't shoot the messenger」という見出しでオバマを批判した。
問題の発言は9日、大学生向けの演説の中で出た。iPodやiPadをはじめとするデジタル機器のせいで「情報は人々に力を与えたり人々を(抑圧から)解放する道具ではなく、気分転換や気晴らし、娯楽の道具になった」と、オバマは述べた。新しいテクノロジー、新しいメディアを嘆いてみせたのだ。
多機能携帯電話ブラックベリーを愛用し、インターネットを活用した選挙戦で大統領になったオバマがデジタル機器を批判するのはおかしな話。エコノミスト誌はそう皮肉ったうえで、テクノロジーは使い方次第で良い情報も悪い情報も伝えるが、総じて民主主義を強化する傾向があると指摘。オバマのデジタル批判は間違っていると断じている。
つまり、デジタル機器は人間の本質を超えることはないという意味でメッセンジャーにすぎない、ということなのだろう。
同誌の論説は、ごもっとも。しかし「iPadであなたはもっと馬鹿になる」と言われると、それはそれで妙に納得してしまうのだが。
──編集部・山際博士
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