コラム

「エコテロリスト」とは誰か──過激化する環境活動家とその取り締まりの限界

2023年09月29日(金)14時05分

ドイツ警察は5月、全国15カ所に一斉に踏み込み、パイプラインへの妨害活動を計画していた容疑などでラスト・ジェネレーション活動家7人が逮捕された。

ウクライナ侵攻後に高騰する天然ガスの需要を満たすため、ドイツ政府は北海海底で新たなガス田開発を検討しているが、ラスト・ジェネレーションはこれに反対し、4月末に活動家が5カ所のパイプラインを手動で停止させていた。

こうした過激な活動を行う団体はラスト・ジェネレーションだけでなく、欧米メディアではエコテロリズム、気候テロといった用語も定着している。

「テロリズム」なのか

道路封鎖や文化財の毀損が迷惑行為、不法行為であることは間違いない。「エコテロリズム」という用語がキャッチーで、メディア受けすることも確かだ。

ただし、実際にテロと呼べるのか、あるいはその呼称が妥当なのかは疑問である。テロと呼ぶには実際の行為があまりに不釣り合いだからだ。

文化財の毀損は容認できないし、修復費用の請求も妥当だろう。

バンダリズム(公共物とりわけ一般的に高く評価されている建造物や文化財の破壊)はテロの一つと認知されている。その意味で、ラスト・ジェネレーションなどによる文化財攻撃は、アフガンのイスラーム組織「タリバン」が行ったバーミヤン仏教遺跡の爆破や、欧米でしばしば発生するユダヤ教徒の墓石の破壊と、毀損の程度に差はあれ、本質的には同じだ。

しかし、それを除けば、環境活動家による直接行動の損害や影響が「テロ」と呼ぶに値するかは疑問だ。例えば、そのパイプラインや発電所などへの不法侵入のほとんどが操業・建設の中止を求めるものだ。

これに対して、イスラーム過激派や極右過激派にはインフラの破壊を目指すものも少なくない。とりわけアメリカでは「腐敗した体制をひっくり返す内戦」を目指す極右過激派による事件(未遂を含む)が増加している。

極右組織「アトムワーヘン分隊」創設者ブランドン・ラッセルは2017年に爆発物所持の容疑で逮捕されたが、公判ではユダヤ教のシナゴーグや送電線とともに原子力発電所までも標的にした爆破計画が明らかになった。極右によるこうした事件はアメリカだけで2020〜2022年に14件発生した。

武器を持たずにパイプライン施設に新入し、自分の手でバルブを締めようとしたラスト・ジェネレーションの活動家とはだいぶ異なる。

「テロ」の認知の重み

環境団体のなかでも、テロリストと呼ぶに相応しいものはある。

アメリカを本拠地とする地球解放戦線(ELF)は2001年頃からエネルギー企業などに対する爆破事件(未遂を含む)をしばしば引き起こし、アメリカ政府から国内テロ組織に指定されているようなものもある。

しかし、少なくともラスト・ジェネレーションのように昨今メディアの注目を集める団体の活動のほとんどは、文化財毀損を除くと威力業務妨害に当たるとしても破壊活動とは呼べない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story