コラム

アマゾンvs.アリババ、戦略比較で分かるアリババの凄さ

2017年11月22日(水)11時15分

アマゾンのジェフ・ベゾス(左)とアリババのジャック・マー(右) Left: Joshua Roberts- REUTERS, Right: Ruben Sprich- REUTERS

<EC事業、リアル店舗展開、物流、金流(金融)、クラウドコンピューティング、ビッグデータ活用......世界2大EC企業であるアマゾンとアリババを比較し、両"経済圏"の戦いを読み解く>

「アマゾン効果」(アマゾンがさまざまな産業や社会全体に影響を与えていること)、「アマゾンされる」(アマゾンによって業界や企業の顧客と利益が奪われること)......特定の企業や産業のみならず国家や社会にまで大きな影響を及ぼすようになり、すべての業界を震撼させる勢いのアマゾン。

一方、今年の中国「独身の日」(11月11日)の取引額が昨年比39%増、過去最高の1683億元(約254億ドル)を記録し、アイスランドのGDPを1日で凌駕するまでに成長を遂げているアリババ。

アマゾンとアリババとの戦いとは、もはや米州経済圏と中国+アジア経済圏での消費経済の戦いという様相を呈し始めている。

現在アマゾンは米州(アメリカ、カナダと中南米諸国)が主な事業エリアであり、それに加え、ドイツ、日本、英国でアマゾン本体事業の4分の1の売上を上げるようになってきている。アマゾンにとっては欧州や日本を攻略したあとで、いかにアジアで勝利できるかが大きな鍵を握っている。

それに対してアリババは、中国での圧倒的な存在感を武器にアジア諸国を攻略している。アマゾンとの最終戦に勝利できるかは、欧米や日本市場をいかに攻略できるかにかかっているといえる状況だ。アマゾンが米州を中心に事業を伸ばし、アリババがグレーターチャイナ(中国本土に加え、香港、台湾)を中心に事業を伸ばしてきているということは、それぞれの地域の消費者経済を比較しているようなものだろう。それぞれの地域との関係性や特徴の影響を強く受けているともいえる。

本稿では、筆者の新刊『アマゾンが描く2022年の世界――すべての業界を震撼させる「ベゾスの大戦略」』(PHPビジネス新書)の第6章「アジアの王者『アリババの大戦略』と比較する」(同章全33ページ)から内容を抜粋し、アマゾン経済圏とアリババ経済圏の戦いを両者の大戦略の比較から論じてみることにしたい。

「商流」「物流」「金流」ではアリババがアマゾンに先行

ECから派生した広範なサービス群、カリスマ的な経営者、ネットからリアルへの進出、異様なまでの成長速度と、アマゾンとアリババにはさまざまな点で重なるところがある。

その一方で、アリババはすでにさまざまな事業領域において量と質ともにアマゾンを凌駕し始めている。最も端的にこのことを示すには、現在のアリババのビジョンを紹介するのがいいだろう。それは、「米国、中国、欧州、日本に次ぐ世界第5位のアリババ経済圏を構築すること」というものだ(アリババは2020年の流通総額の目標を約110兆円としている。なお、2017年実績は約60兆円。いずれも1米ドル=110円換算)。

はじめに、ここでは両者を構成する要素を、図式的に比較してみよう(下の図表30参照)。アマゾンとアリババの違いや、アマゾン以上に進化しているアリババの凄さが浮き彫りになってくるはずだ。

tanaka171122-chart.png

『アマゾンが描く2022年の世界――すべての業界を震撼させる「ベゾスの大戦略」』(PHPビジネス新書)より

ECサイトという事業で比較すると、「自分で仕入れて自分で売る」直販型がより主体でその典型事例であるアマゾンに対し、マーケットプレイス型主体で、中小企業や個人をサポートするビジネスモデルのアリババ、と位置づけることができる。

リアル店舗の展開では、アリババが質量ともに大きく先行している。アマゾンは2017年にホールフーズを買収し、無人コンビニも試験導入中だが、アリババは数年前から、スマホアプリでのみ支払いができる新型スーパー「盒馬鮮生」を展開、北京や上海を中心に13店舗まで拡大している。また地方における拠点「農村タオバオ」は全国に3万店舗以上、無人コンビニも正式営業を始めている。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相、あす午前11時に会見 予算の年度内成立「

ワールド

年度内に予算成立、折衷案で暫定案回避 石破首相「熟

ビジネス

ファーウェイ、24年純利益は28%減 売上高は5年

ビジネス

フジHD、中居氏巡る第三者委が報告書 「業務の延長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story