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大学進学率は20%!「最強の小国」スイスの競争戦略
Wavebreakmedia-iStock.
<8年連続で国際競争力ランキング1位のスイス。世界中からヒト・モノ・カネを引き寄せる競争力の源泉とは何か>
世界経済フォーラム(WEF)の国際競争力ランキングにおいて、2009年以降8年連続で第1位を獲得しているスイス。スイスについて詳しくなくとも、各種の国際機関による競争力ランキングで近年最上位レベルを占めている国と聞けば、興味をもつ人は多いのではないだろうか。
【参考記事】国際競争力ランキング、スイスが8年連続首位 日本は8位に後退
スイスは、面積は4.1万平方キロと3.9万平方キロの九州と同程度である一方、人口は824万人と1296万人の九州の6割強。国土の約7割までもが「ヨーロッパの屋根」といわれるアルプス山脈とジュラ山脈が占めている、天然資源にも乏しい「小国」である。
その一方で、各種の競争力ランキングで高い評価を得ているだけでなく、国民の豊かさを表す指標となっている1人当たりGDPでも7万9578米ドルと世界第2位。同指標が3万7304米ドルである日本の2倍以上もの数値を誇っている。
国家の競争力のみならず、精密機械、ライフサイエンス、金融・保険等で産業クラスターを形成しているほか、食品のネスレ、時計のスウォッチグループ、保険のチューリッヒ等、グローバル企業も数多く輩出し、国・産業・企業の3つの階層において高い競争力を誇っているのがスイスなのだ。
筆者は、通称オランダ銀行と呼ばれるABNアムロの証券現地法人であるABNアムロ証券会社のオリジネーション本部長(マネージングディレクター)として欧州の企業に勤務した経験をもつ。その時の経験からもわかるが、クオリティー・オブ・ライフの水準が高く豊かな国であるスイスは欧州でも尊敬される国だ。
本稿では、事業環境・教育環境・生活環境にも優れ、世界中からヒト・モノ・カネを引き寄せているスイスについて、イスラエル(前回コラム「イスラエルはいかにして世界屈指の技術大国になったか」)に続き、国家としての競争戦略を戦略論の視点から考察してみたい。
国家としてのスイスの競争戦略
詳しい説明は前回コラムをご覧いただきたいが、筆者が国家や企業の戦略分析や戦略策定に使っている「5ファクターフレームワーク」というものがある(図表1)。このフレームワークは、孫子の兵法における五事をモチーフにしたもの。五事とは、道、天、地、将、法であり、国家運営を行う上で最も重要な5つの項目とされている。
【道】「高付加価値×スイスブランド×グローバル」のグランドデザイン
「道」とは、国としてどのように在るべきなのかというグランドデザインや、どのような国にしたいのかという目標のことである。
もっとも、スイスの場合には、国が強力な指導力を発揮して包括的な戦略を実行していくという国家ではない。グランドデザインレベルによるトップダウン統治と分権によるボトムアップ統治が、スイスの「道」の全体構造である。
スイスは、「高付加価値×スイスブランド×グローバル」に特化して競争力を高めるというグランドデザインを描き、実際に国家・産業・企業の3階層において世界最高水準の競争力を維持している国である。
その一方で、国の政府となる連邦政府では同国の企業がグローバル市場での競争を行うのに必要な環境を整備することに特化し、州政府や民間の自治を重視したボトムアップ型の統治を行っていることが大きな特徴である。
連邦政府において詳細な国家戦略が規定されているわけではない。実際に詳細な戦略や計画を描き実行しているのは企業なのである。
スイスは元々が分権国家であり、連邦政府の権限は大きく制限されている一方で、州政府に大きな権限が委任されている。また、国民投票や国民決議という直接民主制の政治システムが採用されており、政府がトップダウンで政策決定する割合が少ないのだ。
R&Dやイノベーションに関する政策についても、連邦政府が巨額の予算を用意しているわけではなく、それらを促進するための環境整備に徹している。
このようなことから、スイスには民間企業に対する補助金といったものはなく、むしろ連邦政府は「競争こそが競争力の源泉」という考え方に基づき、同国企業を厳しいグローバル競争の環境に追い込むことで競争力の強化を図っているのだ。
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