コラム

中国メディアで私が「日本」を語り続ける理由

2017年11月30日(木)19時40分

中国の音声番組配信サイトで配信される私の有料番組は、新宿歌舞伎町のわが湖南菜館で録音している Newsweek Japan

<私は日本と中国を行き来し、中国メディアから相次ぐ出演オファーに応え続けている。中国にも「日本専門家」を名乗る人はごまんといるが、空理空論が多いからだ>

こんにちは、新宿案内人の李小牧です。

私は今、日本と中国を行き来する忙しい生活を送っている。何度かこのコラムでも取り上げてきたが、2015年4月に新宿区議選に出てからというもの、中国メディアの出演オファーが後を絶たない。

元・中国人、しかも「歌舞伎町出身」の私が日本の選挙に出馬したことに興味を持たれたのがきっかけだが、日本の最新の情報を伝える私の話が好評を得て次々と仕事が広がっているのだ。

中国にも「日本専門家」を名乗る人はごまんといるのだが、日本に住んだり、ジャーナリストとして情報収集をしたりしているわけではない。「ボクの考えた日本」とでもいうべき、現実とかけ離れた空理空論が多くなる。日本のリアルを伝える私が"無双"できるゆえんだ。

対日強硬派の「日本の品質は素晴らしいよ」に驚いた

先日も中国に行き、2本の番組に出演してきた。1本目はネット配信サイト「捜狐ビデオ」独自制作のトークショー「悪毒梁歓秀」だ。「歓楽街出身の政治家・李小牧が歌舞伎町の秘密を解き明かす」とのタイトルで、約30年間にわたり歌舞伎町で働いてきた私が見聞きしたさまざまなエピソードについて語った。

歌舞伎町という地名は中国でもよく知られているが、礼儀正しい大メディアでは取り上げることもできない。妄想ばかりがかき立てられているところに、私が本当の情報を伝えたというわけだ。

もう1本は軍事評論家・張招忠のポッドキャスト番組だ。タカ派、対日強硬派として知られる張とやり合うとあって、私は入念に準備した。テーマの1つが日本の品質問題だ。神戸製鋼のデータ偽装問題や、JA全農兵庫の偽装神戸牛事件は中国で大きく報じられている。「高品質を誇る日本企業はなぜ地に落ちたのか」といった仰々しいタイトルで報じられているありさまだ。

そもそも「日本人はウソをつかない、偽装などするはずもない」という前提も間違いだ。以前から偽装事件はしばしば報じられていたが、中国では大きく扱われなかった、あるいは忘れられてしまっただけだ。一方で、「神戸製鋼の事件は日本社会全体の劣化を示している」という結論も余りに飛躍している。

私は「一言に偽装といってもさまざまなレベルがあります。日本と中国の偽装事件は全く次元が違う。日本の偽装で人が死にましたか? ほんのわずか、最終的な製品品質に影響しないレベルの問題でも大騒ぎして自己批判する日本と、死人が出るような惨事になっても変わらない中国を一緒くたにはできません」とビシッと言ってやった。

さあ、張からどんな反撃が来るかと楽しみにしていると、「そのとおりだね、李さん。日本の品質は素晴らしいよ」といきなり日本愛を語り出したので驚いた。外交、軍事では対日強硬派でも、日本製品のクオリティにはメロメロのようだ(笑)。張は「元少将」という肩書きを持つ退役軍人。海外旅行には申請が必要で、自由に遊びに行くというわけには行かないのだとか。日本を旅行したいと愚痴を言う姿が印象的だった。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ紛争は26年に終結、ロシア人の過半数が想

ワールド

米大使召喚は中ロの影響力拡大許す、民主議員がトラン

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story