コラム

中国人はトランプ米大統領誕生の意味をまだわかっていない

2017年01月05日(木)16時17分

Jon Woo-REUTERS

<新宿案内人の今年最大の注目は、米中関係の大きな変数となるであろうトランプ米大統領の誕生。だが、多くの中国人はあまり気にかけていないらしい> (写真:2016年末、中国山西省太原市のショッピングモールに、地元メディアいわく「トランプ氏に似た」鶏の像が設置された)

 あけましておめでとうございます。新宿案内人の李小牧です。

 2017年の世界情勢で最大の注目点はトランプ米大統領の誕生だろう。米中関係の大きな変数となることは間違いない。日本と中国を飛び回っている私としても、どのような影響が及んでくるか気になってしかたがない。

 理由は後述するが、私はトランプ氏を高く評価している。だから一層、その一挙手一投足に注意を払っているのだが、トランプ氏が「一つの中国」政策に疑義を唱えた12月の発言の時を除けば、多くの中国人はそうでもないらしい(あの時は発言に対する怒りのコメントがSNSに溢れていた)。

 中国を為替操作国に認定する、中国製品に関税をかけるといった選挙戦での発言が果たして実際の行動に移されるのか、世界中が注目している......はずなのだが、大きな影響を被るはずの中国人はどうやらあまり気にかけていないようだ。

【参考記事】トランプとうり二つの反中派が米経済を担う

 それというのも、政権発足以来、習近平総書記は"毛沢東以来の強い指導者"としてのイメージ作りに邁進してきたから。庶民の人気は高く、「トランプなにするものぞ! 我々には習近平総書記がいるではないか!」とのムードが広がっている。国内向けに強い指導者を演じても、それが海外に通じるかどうかはまた別の話だということが理解されていない。

 一方のトランプ氏も従来のアメリカ大統領とはまったく違うキャラクターだ。米国はこれまで国際社会のリーダーを自認し、自国の国益以上に世界の利益を重視するという"建て前"を演じてきた。だが、トランプ氏は建て前には拘泥せず、国益最優先の姿勢を見せている。この点では中国とよく似ていると言えるのではないか。

 庶民の期待を背負って弱腰になれない習近平総書記と、こわもてイメージで当選したトランプ次期大統領との間で、米中の対立が激化する可能性は高いだろう。国際関係の激変は中国国内にも大きな影響を与えることは間違いないが、中国人の多くはこのことを理解していない。中国は強固な検閲制度を築き、海外の報道を規制してきた。その弊害が現れていると感じる。

日本は米中の潤滑剤として臨機応変な外交を

 外交面では不安な点も多いが、トランプ氏の大統領就任は米国経済にとってはプラスに働くと考えている。経営者として豊富な経験があり、4度もの破産申請から不死鳥のようによみがえったタフネスもある。また、エンターテインメントやマスコミについても熟知しているというキャリアも魅力的だ。

 ビジネスの才覚、強さ、そしてメディアで揉まれた経歴。これは政治家にとって必要不可欠なものではないだろうか。私はそう考えている。

 トランプ氏とは規模が違うが、レストランや日中をまたにかけたビジネスを切り盛りし、ジャーナリストの経歴を持ち、そして生き馬の目を抜く歌舞伎町で何度も危機に陥りながらも切り抜けてきた私、李小牧も同じ素質を持っている......というのは自画自賛が過ぎるだろうか(笑)。とはいえ、自分にふさわしい仕事だと感じているからこそ、政治家を目指している。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、ウクライナ東部・南部のエネルギー施設攻撃 

ワールド

韓国、中国製鋼板に最大38%の暫定関税 不当廉売「

ワールド

米国務省、中国ファクトシート更新、貿易赤字・安保強

ワールド

韓国大統領、内乱首謀罪巡る刑事裁判に出廷
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「20歳若返る」日常の習慣
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    1月を最後に「戦場から消えた」北朝鮮兵たち...ロシ…
  • 7
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story