コラム
小泉悠 ロシアの「地政学」
ロシア空軍が新たな「空爆」を開始──洪水対策で
巨大な氷が街に押し寄せる SergeyBogatikov/YOUTUBE
ロシア軍が新たな空爆作戦を開始した。
と言っても相手は軍隊ではない。春になるとロシア各地で洪水を引き起こす氷の塊が標的だ。
冬の間、ロシアの大河を覆っていた厚い氷が溶け出すのがこの季節である。だが、実際には分厚い氷はそう簡単に溶け去るものではなく、いくつかの氷の塊に分裂しながら流れ出して河をふさいでしまう。これが春先にロシア各地で洪水を引き起こすのである。
筆者はモスクワにあるロシア非常事態省の中央指揮所(国家緊急事態指揮センター)を訪問したことがあるが、その際も衛星画像に写った氷や倒木の状態から「今年はこの辺で洪水が起きそうだ」といった予測作業が行われているところだった。春の洪水は、ロシアにとってそれだけ馴染み深い(しかし厄介な)災害である。
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特に今年は春に入ってからの気温上昇が急激であったため、この現象が普段より激しい形で発生した。特にアルハンゲリスク州からヴォログダ州へと至るセーヴェルナヤ・ドヴィナ川からスホナ川にかけての水系では顕著で、流域のヴェリーキー・ウスチューク市では以下の動画のような状態になっているという。ヴォログダ州がこの規模の洪水に見舞われるのはおよそ20年ぶりとされ、現在、同州の全域で非常事態宣言が出ている。
これに対してロシア軍が発動したのが、前述した氷への爆撃作戦である。
ロシア国防省によると、作戦は大規模な洪水が始まった18日から開始された。初日は西部軍管区所属の新鋭戦闘爆撃機Su-34(シリアにも派遣されている)を2機投入し、500キロ爆弾8発を氷の塊に投下。19日にも同様の作戦が実施された。
大型爆撃機から戦闘爆撃機へ
その模様はロシア国防省系のテレビ局「ズヴェズダー」の動画で閲覧することができる。
もっとも、以上の動画から分かるように、巨大な氷の塊に対しては如何に500キロ爆弾とはいえ威力十分とは言えない。実は地元の非常事態省もすでに爆発物による氷の除去を試みていたのだが、多量の爆薬を使っても氷の塊を破壊できなかったという。
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このため、空軍も当初は戦闘爆撃機ではなく大型爆撃機を投入し、徹底的な爆撃で氷を破壊することを考えたようだ。しかし、氷が住宅地のすぐそばまで迫っているため危険すぎるということになり、戦闘爆撃機で少しずつ爆弾を投下していく方針に切り替えたとされる。
ほかの地域でも同じような洪水災害が発生する可能性もあり、ロシア軍の氷との戦いはまだ続きそうだ。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
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