コラム

年金が「減る」仕組みを理解しよう──物価・賃金との関係と「減額制度」の現実

2022年06月28日(火)19時52分
日本の高齢者

TOMOHIRO OHSUMIーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<インフレが進む中でも減額となった年金支給だが、現在の制度では今後も物価の上昇に年金が追い付かない状態は続く>

公的年金の支給額が2022年6月分から減額されている。年金減額は2年連続だが、物価上昇が顕著となるなか、なぜ支給額が減らされているのだろうか。

現在の公的年金は物価と賃金に連動して上下する仕組みになっている。今年は4月以降、数多くの商品が値上げされており、前年比で既に2.5%以上、物価が上昇した。それにもかかわらず、年金が減っているのは、物価や賃金の変動分がすぐに支給額に反映されないからである。

22年度の年金支給額は、21年度の消費者物価指数と、過去3年間の賃金変動率で決定される。つまり今年度に支給される年金は、昨年以前の経済状況を基準に決定されるのだ。昨年度の消費者物価指数はマイナス0.2%、過去3年の賃金変動率はマイナス0.4%だった。この場合、低いほうを優先するルールになっているので、今年度の年金額は前年度と比較して0.4%引き下げられた。

つまり昨年は賃金が上がらなかったので、年金は減額されるという理屈だが、賃金さえ上がれば、順調に年金額が増えるのかというとそうではない。

マクロ経済スライドは実質的に「減額制度」

現在の公的年金は、物価と賃金に合わせて支給額を変動させる制度と同時並行で、年金を減らす制度(マクロ経済スライド)も実施している。仮に物価や賃金がプラスになっても、減額制度が発動され、物価や賃金の上昇分ほどに年金は増えない。簡単に言ってしまうと、今の制度を続けている限り、物価の上昇に年金が追い付かない状態が続く。

「マクロ経済スライド」という名前を聞くと、経済状況に合わせて年金額を変える仕組みをイメージするかもしれないが、実態は異なる。この制度は現役世代の負担を減らすため、現役世代と高齢者の人口比率に合わせて年金支給額を減らす目的で導入されたもので、「年金減額制度」と呼んだほうが現実に即している。

日本の公的年金は賦課方式といって、現役世代が支払った保険料で高齢者の生活を支える仕組みになっており、自身が支払った保険料を積み立て、後で受け取るという方式(積み立て方式)ではない。このため高齢者の数が増えすぎると年金財政が極度に悪化するという欠点がある。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガン貿易産業相が副首相に、シンガポール次期首相が小

ビジネス

ソニーG、ゲーム子会社のCEOに西野氏・ハルスト氏

ワールド

ガザ死者3万5000人超、身元未確認は1万人以上 

ビジネス

日本の変動相場制へのコミットメント、ショック吸収に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 5

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story