コラム

中国バブルは崩壊する、だがそれは日本人が思うバブル崩壊ではない

2021年09月29日(水)21時05分
恒大集団

SHEN LONGQUANーVCG/GETTY IMAGES

<バブルの指標となる総融資残高の対GDP比は危険水準を大幅に超えるが、日本でのバブル後の処理とは大きく異なりそうだ>

中国で大手不動産会社の破綻が取り沙汰されていることから、バブル崩壊懸念が台頭している。中国は基本的に社会主義経済なので、仮にバブルが崩壊しても、場合によって民間企業は救済せず、国有企業を救済する折衷型の処理となる可能性が高い。

不動産大手・中国恒大集団が経営危機に陥っており、同社の破綻と中国版リーマン・ショックへの警戒感から、世界的な同時株安も発生した。中国はこれまで著しい経済成長を実現してきたが、不動産価格は経済成長をさらに上回るペースで上昇を続けてきた。同社は積極姿勢が裏目に出て過剰債務の状態に陥っており、資金繰りが厳しくなっている。本社には理財商品(中国の金融商品)の償還を求める投資家が押し掛けるなど混乱が生じているもようだ。

中国の不動産バブルは80年代に発生した日本のバブル経済とよく似ている。好景気と株高を背景に、不動産向け融資が拡大し、賃料に見合わない水準まで価格が上昇した。日本のバブル崩壊の引き金を引いたのは、土地の総量規制など政府による引き締め策だが、実は中国当局もこれに近い政策を実施している。

習近平(シー・チンピン)政権は8月に行われた共産党の中央財経委員会において「共同富裕」の方針を示し、大企業や富裕層に対して富の再配分を強く要請した。最終的には不動産税や相続税の導入を検討しているとされ、意図的に不動産取引を抑制しようとの意図が感じられる。恒大集団の経営危機説も、当局が同社の物件を抵当の対象から除外するという噂がきっかけだった。

中国の現状は「かなりの危険水準」

実際のところ中国のバブル経済は、どの程度の水準なのだろうか。世界恐慌や日本のバブル崩壊、リーマン・ショックなど過去の経験則から、経済圏における総融資残高がGDPの1.7倍を超えると危険水準に入ることが分かっている。中国人民銀行が発表した2021年7月時点の社会融資総量は前年同月比10.7%増の302兆4900億元(約5138兆円)だった。

社会融資総量は中国独特の指標だが、ここから地方政府の債務や株主資本などを除外し、総融資額に近い金額を算出した上でGDPで割ると2.2倍という数字が得られる。これはかなりの危険水準であり、何らかの処理が必要なのは間違いない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story