コラム

極めて合理的な政策だったアベノミクス──不発だったのは誰のせい?

2020年09月09日(水)12時02分

輸出という外需ではなく、日本人自身の消費で経済を回す内需主導型経済への転換が必要だったはずが、こうした改革は行わず、ひたすら日銀が国債を買い続ける金融政策に依存した。

量的緩和策はほぼ確実に通貨安をもたらすが、実際、日本円は大幅に減価し、これによって輸入品の価格は大きく上昇。株価には効果があったが、賃金が上がらないなか、物価だけが上がり、消費者の生活は苦しくなった。

産業構造の転換を伴わないまま、金融緩和だけを繰り返しても効果が薄いというのは、アベノミクス実施前からたびたび指摘されていたことだが、改革の実現は容易ではない。安倍氏は憲法改正が悲願であり、経済政策への関心は実は低かったとの指摘もある。理由はともあれ、アベノミクスは当初とは全く違った姿になり、結果として十分な成果にはつながらなかった。

本来なら目玉政策が大きく変われば、安倍政権のコアな支持層からも批判が出たはずだが、安倍氏の支持層は政策よりも安倍氏本人を支持するという側面があり、アベノミクスの変質という重要な問題はあまり議論されなかった。こうした支持層の存在が長期政権を可能にしたともいえるが、逆に言えば、これがアベノミクスが不発に終わってしまった最大の理由だろう。

<本誌2020年9月15日号掲載>

【関連記事】
・日本経済が低迷する本当の理由は「中間搾取」と「下請け構造」
・日本は世界に誇るべき「社会主義国」です

20200915issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月15日号(9月8日発売)は「米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算」特集。勝敗を分けるポイントは何か。コロナ、BLM、浮動票......でトランプの再選確率を探る。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ペルー中銀、政策金利5.75%に引き下げ インフレ

ビジネス

コンステレーション・エナジー、電力需要増で次世代原

ビジネス

BYDが25年に欧州2カ所目の組立工場建設を計画 

ビジネス

F&LCが業績上方修正、純利益倍増 スシロー事業好
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 3

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 4

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 5

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 10

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story