コラム

離脱派の勝利で激動するイギリスの今

2016年07月07日(木)15時30分

Neil Hall-REUTERS

<国民投票でEU離脱派が勝利して以降、イギリスでは日々政治情勢が激変している。一方で、離脱が多数派だったイングランドを心が狭いと非難する声が上がったり、EUを代弁するパッテン卿が国民投票の結果を恐ろしいことだと語ったり......>

 イギリスには、「政治に1週間は長い」という言葉がある。政治においては1週間あれば激変が起こり得る、という意味だが、この言葉が今ほど当てはまる時はないだろう。

 僕は以前、面白いマンガを目にした(ここで紹介したかったがネット上では見当たらなかった)。僕の記憶が正しいなら、2人の学生が出てきて、1人が相手にこう言う。「僕は政治学コースを受講している。扱う時代は、木曜午後から金曜夜までだ」

......野暮な解説でこのジョークの面白みを台無しにするのはやめておこう。

「イングランド人は偏狭」という難癖

 ここのところ、「リトル・イングランダー」について語られることが多い。この言葉はつまり、EUからの離脱に投票したのはイングランドの人々ばかりであり、彼らは心の狭い外国人嫌いの連中だ、と暗に示しているらしい。

 ウェールズでも離脱票が多数を占めたのは重要な点なのに、「リトル・ウェールザー」などという言葉は耳にしたことがない。離脱票は北アイルランドとスコットランドで少数派だったが、圧倒的な敗北というわけではなかった(離脱派は北アイルランドで44%、スコットランドで38%)。でも明らかに、離脱票イコールイングランド人特有の病理、と決めてかかるほうが都合がいいらしい。

【参考記事】「ブレグジット後悔」論のまやかし

 僕が何より驚いたのは、「リトル・イングランダー」の本来の意味を誰も思い出していないように見えること。元々は、19世紀の帝国主義に疑念を唱える人々を指して作られた言葉だ。イギリス史上最も偉大な指導者の一人、ウィリアム・グラッドストーン元首相も含まれる。

 リトル・イングランダーは反帝国主義者で、迅速に統治できる国家を望み、それによってイギリス経済も改善すると考えていた。ついでに言えば、帝国のおかげで能力に関係なく快適な閑職に就ける貴族の子息たちに、怒りをおぼえてもいた。

 時々僕は「現代版リトル・イングランダー」を自称すべきだと思ったりするが、おそらく周りの人からは正しい意味で捉えてもらえないだろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米上院、ヘグセス氏の国防長官人事を承認 賛否同数で

ワールド

トランプ氏がノースカロライナとロス訪問 FEMA廃

ワールド

アングル:戦争終結ならウクライナ人労働者大量帰国も

ビジネス

米国株式市場=反落、来週のFOMCや主要指標に警戒
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ人の過半数はUSスチール問題を「全く知らない」
  • 3
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄道網が次々と「再国有化」されている
  • 4
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 5
    電気ショックの餌食に...作戦拒否のロシア兵をテーザ…
  • 6
    早くも困難に直面...トランプ新大統領が就任初日に果…
  • 7
    軍艦島の「炭鉱夫は家賃ゼロで給与は約4倍」 それでも…
  • 8
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 9
    「ホームレスになることが夢だった」日本人男性が、…
  • 10
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 6
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 7
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 8
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story