- HOME
- コラム
- Edge of Europe
- 絶好調アーセナルに僕はハッピー!
コリン・ジョイス Edge of Europe
絶好調アーセナルに僕はハッピー!
これを書いている今、僕は幸せな気分だ。最近はいろいろとストレスを感じることが多いから、自分でも驚いてしまうのだが。うっとうしい天気、世界情勢、個人的な財政危機に消化不良......それでも僕はハッピーだ。
僕が幸せなのは、多くが非イギリス系である大富豪たちがしっかり仕事をしているから。かなり理解しがたい理由だとは思う。彼らはその仕事に対して高い報酬を得ているし、他人からの称賛や仕事の満足度においても十分な見返りを得ている。普通なら、僕もこんなことで幸せを感じたりはしない(普通なら嫉妬するだろう)。でもこの大富豪たちは、僕が子供の頃から応援しているサッカーチーム、アーセナルに所属しているのだから話は別だ。
僕のように、自分の精神的安定のいくらかの部分をサッカーチームに「アウトソーシング(外部委託)」しているイギリス人は珍しくない。これはイギリス人男性の心理を理解する上で、とても重要な問題だ。自分の好きなチームがいい成績なら非常に心安らかでいられるし、ひどい成績ならいらいらして落ち込んでしまう。
一番幸せな状況は――これが今の僕なわけだが――自分の応援するチームが好調で、一番嫌いなチームが問題を抱えている時だ。
今のところ、アーセナルはイングランド・プレミアリーグの首位に立ち、欧州チャンピオンズリーグ(CL)でも好成績を収めている。僕はテレビでできるだけ多くの試合を見ているが、結果が良かった時には大きな重荷が外れたように感じるばかりか、他人ともうまくやれる。アーセナルのファンである友人たちとは、温かな満足感をともに味わう。ライバルのチームを応援している友人たちに対しても優しくなれる(「僕の」チームが「彼の」チームに負けたばかりの時は違うが)。
ある友人が以前にこんなことを言っていた。「チームを1つ選ぶという7歳の少年が小さな決断が、残りの人生の心理状態に影響するなんておかしいね」
最近では、アーセナルがシーズン最初の試合でひどい負け方をした時に僕の父がこう言った。「このシーズンも、彼らがばかな負け方をするのを見るなんて耐えられそうにない」
■サッカーは強烈な喜びと悲しみの源
だが驚くべきことに、その開幕試合はただの例外だった。そこからスイッチが入ったように、アーセナルは次々と勝利。ただ勝つだけではなく、劇的な勝利、愉快な勝利をみせてくれた。2シーズン前は期待はずれの働きをしたり、成長できなかったり、ケガばかりしていたような選手たちが自信と大胆さをもってプレーし始めた。
予測不可能なところがサッカーの魅力。簡単に勝てそうな試合が接戦になったりするし、輝かしい新契約が大失敗に終わることもある。疲弊して故障者だらけのチームがリーグ上位のチームを破ることも、「楽勝」と思った試合が最後の5分でひっくり返されることもある。8年間も優勝と無縁のチーム(アーセナル)が、彼らの強さを疑う人を黙らせたりする。
イギリス人男性にとってサッカーは強烈な喜びと悲しみの源であり、終わりなき議論の対象だ。人を結び付けると同時に、あつれきの原因にもなる。人はサッカーを通じて絆を強めるし、仲たがいもする(僕は2人のいとこと一緒にいる時は気を付けなければならない。アーセナルのライバルチームの熱烈なファンだから)。
大金持ちのさまざまなチームについて、これほどの情熱を傾けるのは確かに奇妙だ。でもイギリスを訪れ、イギリスの文化を理解したいと思う人なら知っておくべきことである。
もしもアーセナルの快調な成績がストップしてしまったら、僕にサッカーのことは尋ねないでほしい。どんなにほかの事がうまく行っていても、僕はひどく不機嫌だろうから。
注)これを書いた後で、アーセナルは2敗してしまった(だからサッカーは分からない)。それでもまだリーグ首位だし、チャンピオンズリーグにも残っている。だからまだ僕はハッピーだと思う。でも、もしもまた負けたら......。
煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄道網が次々と「再国有化」されている 2025.01.22
2025年、ついにオアシス再結成......その真実を語ろう 2025.01.08
土地持ち農家は高額な相続税を払え...英労働党の新方針が農村部で大不評 2024.12.27
シリアに散った眼帯のジャーナリスト...アサド政権崩壊で思い返したいこと 2024.12.12
バックパックを背負った犬が歩くたび、自然が蘇る未来 2024.12.06
イギリスを悩ます「安楽死」法の重さ 2024.12.04
引責辞任したカンタベリー大主教のセレブで偽善的でえげつない素顔 2024.11.30