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コリン・ジョイス Edge of Europe
「尊敬される日本人」は最高!
今週発売されるニューズウィーク日本版のカバー特集は「世界が尊敬する日本人」。今回で5回目となるこの特集を担当することを、僕はいつも楽しんできた。
今日はこの特集について触れてみたいと思う。 なにしろこれほどやりがいがあって、興味深い仕事はめったにない。この特集が魅力的なのは、実にバラエティに富んだ人生を垣間見ることができるという点だ。
多くの素晴らしいプロフィールを執筆したのは同僚の記者だが、僕の記憶に残ってるのはもちろん自分が取材した人たちだ。
たとえば、シカゴのウィルソン・スポーティング・グッズ社で大リーグ選手のグローブを作っている麻生茂明。野球についてほとんど知らない僕にとっては、すべてが新しい発見だった。
04年の第1回で取り上げたのは「Monkey」。子供の頃、エネルギッシュで、小生意気な猿(孫悟空)に夢中になったことを書いた。BBCで毎週金曜日の夜に、日本のテレビドラマ『西遊記』の英語吹き替え版が放映されていたのだ。9歳の僕にとっては、1週間のハイライトだった。
2人の活動家、田村佳子と笹本妙子を紹介したときは、誇らしい気分になったものだ。彼女たちは第2次大戦中に日本で収容され、亡くなった捕虜たちの足跡を長年かけて辛抱強く調べ上げた。そうして完成したデータベースは、遺族たち――自分の父親を知らない娘や息子たち――の慰めとなった。その功績を称え、06年にエリザベス女王が2人に勲章を授与している。
■ブルックリン植物園の日本庭園に救われた
最新版で取材したのは、まったく異なる3人だ。ニューヨークにすむ女性イラストレーター、貧しい移民を助けるワシントンの元銀行マン、60年以上前に亡くなった造園師。人々の大胆な行動力には、いつもながら驚かされる。
清水裕子は30歳のときに大きな決断をする。経験がなかったにもかかわらず、イラストレーターになるために大手商社を辞めた。その決断は大いに実を結んだ。枋迫篤昌(とちさこあつまさ)は銀行で手に入れた地位を捨てた。貧しい人たちのための金融サービスという30年来の夢を実現しなければ絶対に後悔すると思ったと、彼は強調した。
3人目の塩田武雄には、僕の個人的な思い入れが混じっている。僕は以前、ブルックリン植物園の近くに住んでいた。当時悩みを抱えていて、植物園の中の日本庭園によく足を運んだものだ。その美しさに心の平穏を取り戻すことができた。この日本庭園を設計した塩田武雄の人生について知ると、僕の悩みなどちっぽけに思えた。
塩田は第2次大戦中に日系人収容所に収容され、1943年に亡くなった(収容所で亡くなったとされているが、病院で亡くなった可能性もある)。ブルックリン植物園の日本庭園は、高まる反日感情のあおりで破壊され、数年間の閉鎖を余儀なくされた。冒険に満ちた人生にしては、寂しい最期といえる。
独学で造園を学んだ塩田が日本で評価されることはなかったが、東海岸各地で日本庭園を設計した。強固な意志の持ち主で、アメリカ的な大言壮語も得意だったようだ。「私の最大の野望は、世界で最高に美しい庭を作ることだ」と、1915年に書いている。同年に彼はブルックリン植物園を完成させている。同植物園は、アメリカで一般に公開された最初の日本庭園となった。
塩田の野望が叶ったとは言うまい。でも、騒々しいニューヨークの街並みから抜けて彼が作った空間に足を踏み入れると、彼が書いたことが理解できるような気がする。「文明の雑音から逃れるためには、シンプルな田舎暮らしをして、きれいな空気を吸うこと。そうすれば人生を浄化できる」ということだ。
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