コラム

DHCと虎ノ門ニュースが残した厄介な「右派市場」

2023年02月04日(土)19時06分
DHC、新宿、虎ノ門ニュース

右派言論は「普通の人々」を引き付け続ける(2019年4月、新宿)krblokhin-iStock.

<保守系番組のスポンサーだったDHCが買収によって役割を終えても、同社が開拓した差別をもいとわない言論市場は残り続ける>

右派言論人の牙城として知られたネット番組、『虎ノ門ニュース』の終了がひっそりと発表された。この番組は、化粧品通販・健康食品大手のDHCを親会社とする「DHCテレビ」が制作していた。DHC本体は2022年11月、オリックスに約3000億円で買収されることが明らかになった。この発表と前後して、同番組を含む動画関連のサービスは終了告知がなされた。買収の影響があったことは想像に難くない。

同社はこのまま役割を終えるが、怪しげな言論を振りまいたメディアが名実共に勢いを持ったという事実は残る。この方法に学んだ人々が、新たなスポンサーと共に再現を目指すという可能性は決して低くない。

社名を冠したメディア企業の政治的スタンスは、一代でDHC本体を急成長させた吉田嘉明会長兼社長の意向が強く反映されている。DHCテレビが制作し、17年にTOKYOMXで放映された情報バラエティー番組『ニュース女子』は、BPO(放送倫理・番組向上機構)から「重大な放送倫理違反」を指摘された。在日韓国人で人権団体代表の辛淑玉(シン・スゴ)氏が組織的に参加者を動員し、沖縄で過激な米軍基地反対運動をあおっているという内容の番組は、東京高裁でも名誉毀損が認定されている。ルーツに対する差別もあり、判決内容は至極真っ当なものである。

吉田氏は当時、BPOに対し激しく反論している。「普段NHKや地上波の民放テレビを見ていて何かを感じませんか。昔とは明らかに違って、どの局も左傾化、朝鮮化しています」と、公然と手記に記す彼の思想傾向は極めて明確であり、民族差別ともかなり親和的だ。

問題はこれらの言説が右派層を中心に一定の支持を集めたことにある。彼の差別的発言に対し不買運動も起きたが、3000億円で買収されたことが示すように、彼の政治的スタンスがマーケットに与えた影響は大きくはなかったとみるべきだろう。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アップル、今年の世界開発者会議は6月9―13日に開

ビジネス

米国、輸出制限リストに70団体を追加 中国・イラン

ビジネス

米財政状況は悪化の一途で債務余裕度低下、ムーディー

ワールド

ザポロジエ原発「ロシアの施設」、他国への管理移転不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 4
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 7
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 10
    【クイズ】トランプ大統領の出身大学は?
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story