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アングル:米企業のM&A資金、想定利下げ幅縮小で株式と現金にシフト

2024年05月08日(水)11時13分

 5月7日、米連邦準備理事会(FRB)による年内の想定利下げ幅が縮小してきたのに伴って、米大手企業は合併・買収(M&A)の資金を借り入れではなく、株式と手元現金で賄おうとしている。昨年12月、ニューヨーク証券取引所で撮影(2024年 ロイター/Eduardo Munoz)

Shankar Ramakrishnan Anirban Sen

[ニューヨーク 7日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)による年内の想定利下げ幅が縮小してきたのに伴って、米大手企業は合併・買収(M&A)の資金を借り入れではなく、株式と手元現金で賄おうとしている。

LSEGのデータに基づくと、2023年初め以降に全額株式、ないしは株式と現金で資金調達されたM&Aの総額は、過去20年余りで最高水準に達した。

今年これまでに発表されたM&Aのうち、全額株式による案件は約24%、2636億ドルと2001年以来の水準を記録。株式と現金による案件も全体の10.8%を占め、21年以降で最も高くなった。

複数の投資銀行関係者やM&Aの法律専門家、市場関係者らは、こうした調達戦略は今年勢いが加速すると予想する。目先の利下げ期待がなくなり、借り入れコストはより長い期間高止まりする見通しになったためだ。

バンク・オブ・アメリカのグローバルM&A共同責任者を務めるイバン・ファーマン氏は「企業が自国通貨について不安を持っていない場合、ディールに株式を活用する傾向がある。同時に彼らは(借り入れをすることで)債務を過剰に持ちたがらない」と語り、M&A当事者は資金調達構造をどうするかに関してより慎重な姿勢になりつつあると付け加えた。

今年株式を主に活用した案件として目立ったのは、キャピタル・ワンによるディスカバー・ファイナンシャル買収(350億ドル)、ダイヤモンドバック・エナジーのエンデバー・エナジー買収(260億ドル)、ブラックロックのグローバル・インフラストラクチャー・パートナーズ買収(125億ドル)などだ。

ラザードのグローバルM&A責任者を務めるマーク・マクマスター氏は「売り手の観点では、株式方式の取引はシナジーによって創造される価値を(買い手側と)共有する意味がある」と指摘した。

<借り入れは伸び悩みか>

モルガン・スタンレーのアナリストチームは3月のリポートで、今年はM&A総額が50%増加すると予想し、23年が10年来の低水準に沈んだことによる待機需要を主因として挙げた。

しかし市場でFRBの年内利下げ回数の想定が一時の3回から1─2回に減りつつあるため、足元まで借り入れ主体だったM&Aの資金調達の内容は急速に変わろうとしている。

インフォーマ・グローバル・マーケッツのデータによると、今年これまでに投資適格級格付けの企業はM&A向けに借り入れを通じて710億ドル弱を調達しており、これは過去3年よりも急速なペースだった。

ただ今年全体の調達額は22年と23年を超えるものの、21年の1730億ドルには届かないとみられる。

バークレイズ・キャピタルの米投資適格級シンジケートデスク責任者を務めるスコット・シュルテ氏は、投資適格級企業は借り入れを続けているかもしれないが、期限前償還の柔軟性を拡大したり、満期がずっと短いコマーシャルペーパー(CP)やブリッジローンを活用したりと工夫をしている可能性があるとの見方を示した。

ロイター
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