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アングル:大規模な介入観測、投機の円売り抑える 効果一時的か

2024年04月30日(火)17時07分

 29日にドル/円相場が演じた乱高下の余波が続いている。写真は米ドルと円の紙幣。2013年2月撮影(2024年 ロイター/Shohei Miyano)

Shinji Kitamura

[東京 30日 ロイター] - 29日にドル/円相場が演じた乱高下の余波が続いている。政府・日銀が大規模な円買い介入を実施したとの観測が広がり、短時間で値幅を稼ぐ投機筋の円売りはひとまず収まっているようにみえる。もっとも、日銀が緩和的な政策を堅持する限り、金利差に基づく通貨安に歯止めがかかる兆しは乏しいとの見方も依然根強く、いつ円売りが再開してもおかしくない環境だ。

<ドル6時間で5.8円下落、2度の巨額売りか>

29日午前10時半過ぎ、閑散としていた外為市場に緊迫ムードが広がった。日本が祝日で取引量が減少する中、特段の手掛かりがなかったにもかかわらず、158円前半を推移していたドル/円が、突然上昇を始めた。

日本勢不在の中、ドル/円の上昇ピッチは急速で、上昇を開始してわずか5分で2円弱急伸し、160.24円と1990年4月以来34年ぶり高値を更新した。「薄商い下で大きな値動きが狙えるとみた短期筋が買いに動いたようだ」(FX会社)といい、上値に控える損失確定の買い戻しを相次ぎ巻き込んで、上昇が加速したという。

午後1時過ぎ、仕掛け的な買いが一巡して159円前半へ反落したドル/円に衝撃が走る。市場筋によると、159円半ばへ小幅に上昇した直後、買いを迎え撃つような形で突然大きな売り注文が出て、1分間で158円前半まで急落。その後もまとまった売りが断続的に入り、1時間後には155円前半まで4.6円下落した。

為替介入のうわさが飛び交うとともに、日本の個人や海外ファンドなど値動きの軽さに飛びついた短期筋の売買が活発になると、夕方にかけてドルは再びじり高となって157円台へ切り返した。すると午後4時過ぎ、もう一度ドルが突然、1分間で1円近い下げとなり、30分後には154円半ばまで2.6円下落した。

その後も値幅取りを狙った短期筋の売買は止まず、ドルは短時間に上下する動きを繰り返し、海外市場の終盤になりようやく値動きが落ち着いた。現在は26日日銀会合前の155円半ばからドル高/円安の156円後半で取引されている。

<口閉ざす当局、膨らむ思惑>

きょうも岸田文雄首相、神田真人財務官ら政府要人は介入に関するコメントを避け、実際に介入が行われたかは依然定かではない。だが市場には、前日の値動きは「買いを食い止めるように売りを何度もかぶせていた。円買い介入以外には考えづらい」(外銀幹部)との指摘が多数ある。

仮に介入であったとすれば、当局の「本気度」を示すとされる規模はどの程度だったのか。出所不明のうわさが多数交錯する中、市場では早くも様々な試算が出回っている。

そのひとつが前回との比較。前日のドル/円の下落率は3.6%と、前回介入時の2022年10月の3.8%とほぼ同じだった。当時は2日間で6.3兆円が投じられており、今回も「5兆円ほどはあったのではないか」(市場筋)との観測が出ている。

これまでの円買い介入はおおよそ、平均的に1兆円の売りで1円程度の押し下げ効果があったとされる。

<ドル急落時、海外投資家が下値で買いとの観測>

シティバンクが22年の介入時、23年にレートチェックが行われた前後10日間の値動きを調べたところ、実施後のドル/円の変動率は、実施前を大きく下回った。「ドル/円は数日から数週間は狭いレンジ内を推移し、その値幅は介入日以下に収まる傾向がある」(G10通貨戦略責任者のダニエル・トボン氏)という。

今回のケースでいえば、ドルは155円付近から160円付近の範囲で、しばらく推移する公算が高いことになる。

それでも値動きのみではなく、大きく開いた金利差から得られる収益も見込めるドル買い/円売り意欲は、すぐに収まりそうにない。今回の急落で「買い上がる向きは限られるかもしれないが、ドルの下値で金利差収入を狙うキャリー取引のニーズはかなり強い」(外銀アナリスト)ためだ。

実際、休暇明け30日の東京市場でドルは、朝方の156円前半から後半へじり高となった。29日の急落時も、ドルの下値では海外投資家が相次ぎ買いに動き、円高の勢いを削ぐ場面が見られたとの声が聞かれた。

(基太村真司 編集:橋本浩)

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