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焦点:日銀総裁、金利曲線「適切」 3基準次第で修正の可能性も
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12月21日、黒田東彦日銀総裁は会見で、物価2%目標の実現に向け、現在のイールドカーブが「最も適切」と繰り返し、市場にくすぶる長期金利目標の引き上げ観測を一蹴した。都内の日銀本店で撮影(2017年 ロイター/Issei Kato)
[東京 21日 ロイター] - 黒田東彦日銀総裁は21日の会見で、物価2%目標の実現に向け、現在のイールドカーブが「最も適切」と繰り返し、市場にくすぶる長期金利目標の引き上げ観測を一蹴した。
ただ、経済・物価・金融情勢の3基準の変化によってイールドカーブを修正する可能性にも言及。3つの基準の動向を注視するスタンスも示した。
物価は目標の2%が依然として遠く、来年の金融政策運営は市場とのコミュニケーションを含めて難しいかじ取りを迫られそうだ。
「リバーサル・レートに言及したからといって、政策の見直しが必要ということではない」──。
黒田総裁は会見で、11月のスイスでの講演で自身が言及した、金利を下げ過ぎると金融仲介機能に悪影響を与え、かえって金融緩和効果が減衰するとしたリバーサル・レートの考え方について問われ、こう説明した。
スイスでの講演以降、市場では、日銀が現在ゼロ%程度としている長期金利目標の引き上げに向けた地ならしを始めたのではないか、との見方が浮上。そうした観測を明確に否定したかたちだ。
黒田総裁はこの日の会見で、日銀の最大の目標は2%の物価安定目標をできだけ早期に達成することだと強調し「景気がいいから、そろそろ金利を上げるかとか、そうした考えはない」と明言。
金融仲介機能に関しても「現時点で問題は生じていないし、金融機関は資本基盤を備え、資本コストも低下しており、近い将来問題が生じることもない」とし、「現時点では、(経済・物価・金融情勢の)3つの基準からみて、今のイールドカーブを変える必要はない」と繰り返した。
副作用が顕在化していない現状では、現行の緩和策を粘り強く推進し、緩和効果とインフレ期待の強まりを促していくことが最も適切との判断を示したといえる。
もっとも、黒田総裁は先行きの政策調整の可能性まで否定したわけではない。現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」政策の枠組みでは、物価2%達成前に経済・物価・金融情勢に応じてイールドカーブの調整を行うことが可能だ。
総裁は、経済・物価・金融情勢の3基準の変化によって「現状と違うかたちのイールドカーブが適切となれば、そうしたイールドカーブが形成されるようにコントロールを変えていくことになる」と言明した。
海外経済の好転を背景に、日本経済は内外需のバランスのとれた成長を続けており、民間調査機関では、来年も引き続き景気拡大が持続するとの予想が多い。
一方、物価は引き続き緩慢な動きを続けるとみられており、日銀による超低金利政策の継続が及ぼす金融仲介機能への悪影響を懸念する声は、今後一段と強まる可能性がある。
ある地域金融機関の幹部は「日銀の見通しに沿って物価が上がり、デフレから脱却するというなら、それは結構なことだ」としながら、「これまで何度も物価目標の達成時期が先送りされてきた。問題は、この超低金利が本当にいつまで続くかわからないことだ」といら立ちを隠さない。
日銀では現在、物価は目標の2%に「2019年度ごろ」に到達すると見込んでいるが、民間見通しとの隔たりは大きい。
仮に目標達成時期をさらに先送りするような事態になれば、金融仲介機能への悪影響も、より現実的なリスクとして意識せざるを得ない可能性がある。
日銀内では、景気の先行きへの自信が深まるとともに、デフレや円高への「逆行」リスクがかなり低下しているとの見方がある。
同時に超低金利政策の副作用による弊害の「芽」が、どこかに存在するリスクについて、冷静にチェックする必要性を指摘する声も出ている。
物価2%が遠い中で、今後も緩和政策を継続していくが、副作用とのバランスをどのように政策に反映させるのか、市場とのコミュニケーション方法を含め、来年の日銀の課題になりそうだ。
(伊藤純夫 編集:田巻一彦)