超富裕層への富の集中がアメリカを破壊する
F・ルーズベルト大統領は政府の役割を大きくした Bettman/GETTY IMAGES
<極端な富の偏在は民主主義を衰退させ、やがて未曾有の政治的混乱を引き起こす>
カネが世界を動かし、選挙の流れを決め、権力の担い手を決めている。アメリカをはじめとする先進国で進行する富の集中は、社会と民主主義の安定をじわじわと危険にさらしている。富の集中は温暖化と並んで、現在の世界を崩壊させる恐れがある最も深刻な長期的問題だ。
かつて筆者がいたCIAの任務は、「権力者に真実を告げること」だ。それはしばしばリーダーに嫌われ、無視されることを意味する。筆者が最後に所属した国家情報会議(NIC)は、未来を予測するのが仕事だった。まだ形になっていない情勢を見つめ、私の場合は「国境を超えた脅威」を判定していた。
こうした脅威が形になるのは2~5年、あるいはもっと先のこと。だから多くのリーダーは対応を先送りにして、目先の問題に集中する。ギリシャ神話の予言者カッサンドラのように、NICの予測は悪いことばかりだと嫌みを言われる。そのくせ脅威が現実になると、「諜報のミス」だと非難される。
実のところ現在も、私たちの社会や政治体制全般を脅かす重大な流れは存在する。それは富の集中だ。
今のように国家の富がひと握りのエリートに集中しているのは、第一次大戦直後や19世紀後半以来のことだ。この流れは加速しているから、いずれ富の集中レベルはアメリカの歴史上で最悪になるだろう。
富の集中が、グローバル化というもっと目に見える変化と組み合わさると、ポピュリズムが高まり、民主主義は衰退する。ますます限られたエリートに権力が集中して、大衆はブレグジット(イギリスのEU離脱)のような自滅的選択をし、まともに本も読めないドナルド・トランプ米大統領のような権威主義的デマゴーグを選び、民主主義は直接脅かされる。
このことはデータにはっきり表れている。アメリカでは所得トップ1%の世帯が国家の富のほぼ40%を握っており、下位90%の世帯は富の約23%を占めるにすぎない。また、70年代以降のアメリカの富の拡大分の75%は、1%の最富裕層が得てきた。
フランスの経済学者トマ・ピケティが、ベストセラーとなった著書『21世紀の資本』(邦訳・みすず書房)で指摘したように、「資本は自己増殖する。ひとたびその仕組みが確立されると、自己増殖のスピードは、生産によって(国民の所得が)蓄積されるスピードを超える。過去が未来を貪り食うのだ」。
アメリカで富の集中が加速したきっかけは、共和党のロナルド・レーガン大統領による80年代の「レーガン革命」だった。この「革命」で、アメリカの財政と税制から富の再分配機能が大幅に削られた。
フランクリン・ルーズベルト大統領の「ニューディール」政策とリンドン・ジョンソン大統領の「偉大な社会」以来、アメリカでは市場経済が一定の規制を受け、金持ちほど税負担が大きく、貧困層を支援する政策が取られてきた。だがレーガン革命は、政府が社会活動家のような役割を果たすことを否定した。
いずれ世界も同じ状態に
富の集中は、市場経済を採用する先進民主主義国に共通するものだ。ただしアメリカが世界で覇権的地位を築いて以来、社会・政治・経済のあらゆる分野で、アメリカで起きたことは約15年後に世界各地で顕在化する。
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