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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
日韓関係をこじらせた「河野談話」の訂正が必要だ
韓国の李明博大統領が突然、竹島を訪問したことで、日韓関係がにわかに緊迫してきた。韓国政府は野田首相からの親書を返送し、日本政府は韓国と結んでいる通貨スワップ協定(緊急融資の与信枠の設定)を10月で打ち切る方針を示唆した。小さな島の領有権をめぐってここまでもめる背景には、韓国の根深い「歴史問題」がある。
李大統領もいうように竹島の領有権は本筋ではなく、彼のねらいはいわゆる従軍慰安婦の問題で日本の譲歩を迫ることだ。昨年末の訪日でも、日韓首脳会談の半分以上が慰安婦に費やされた。これは昨年8月に韓国の憲法裁判所が「慰安婦の賠償請求権について韓国政府が何の措置も講じなかったのは憲法に違反する」という判決を出したことがきっかけだ。
慰安婦問題は、1965年の日韓基本条約で賠償の対象になっていないが、1983年に吉田清治という元軍人が「済州島から慰安婦を拉致した」という証言を出版して騒ぎが始まった。これは地元紙などが調査して嘘であることが明らかになり、吉田も「フィクションだ」と認めたのだが、高木健一氏や福島瑞穂氏などの弁護士が「私は慰安婦だった」という韓国女性を原告にして、1991年に日本政府に対する損害賠償訴訟を起こした。
このときの訴状は「親に売られてキーセン(娼婦)になった」という話だったのだが、これを朝日新聞が「軍が慰安婦を女子挺身隊として強制連行した」と誤って報じたため、1992年に宮沢首相(当時)が韓国で謝罪するはめになった。その後、日本政府が調査した結果、1993年に発表されたのが河野洋平官房長官談話である。そこには
慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。
という表現があり、これが「軍による強制連行を日本政府が認めた」と韓国側が主張する根拠になった。しかし「官憲等が直接これに加担」というのは、大戦末期にインドネシアで起こった軍紀違反事件のことで、韓国とは無関係だ。これは外務省が「強制性を認めることで決着をつけよう」という発想で、韓国に譲歩したものらしい。
実は河野談話は、閣議決定された政府の正式文書ではない。この問題については辻元清美氏が2007年に衆議院で質問し、これに対する安倍内閣の答弁書が閣議決定された。ここでは次のように書かれている。
慰安婦問題については、政府において、平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、同月四日の内閣官房長官談話のとおりとなったものである。また、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである。
つまり政府としては「強制連行はなかった」というのが公式見解なのだ。慰安婦は軍の管理のもとに行なわれたが、軍が公権力で拉致・監禁したわけではないので、日本政府が責任を負ういわれはない。
ところがこの答弁書で「官房長官談話のとおり」と書いたため、「官憲が加担した」という河野談話と矛盾する結果になった。これは過去の政策をつねに正しいとする霞ヶ関の「無謬主義」が原因だが、政府が指導力を発揮して訂正すべきだ。少なくとも「官憲等が直接これに加担した」は史実ではないので、「官憲が取り締まる努力を怠った」ぐらいが穏当な表現だろう、というのが秦郁彦氏(歴史家)の意見である。
日本人から見ると、こんな古い問題でもめ続けるのは信じられないだろうが、韓国は面子を重んじる儒教の国だ。「謝ったら許してくれるだろう」という日本的な感覚は通じない。特に李大統領は、実兄や側近が逮捕されて政治的に追い詰められており、このまま放置すると戦術をエスカレートする可能性もある。
これまで韓国側は強制連行の物的証拠を一つも出すことができなかったので、事実関係は明らかだ。最近は「女性の人権を侵害した」という話にすり替えているが、それについては日本もアジア女性基金などで誠意を示した。韓国と対等に喧嘩すべきではないが、今までのように曖昧な対応をすると問題はかえってこじれる。政府は安倍内閣の答弁書にそって政府見解を修正し、「新官房長官談話」を出すべきだ。
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