コラム

ブロックチェーンからポスト資本主義まで。米の富豪たちがスマートシティを砂漠の真ん中に作りたがる理由

2021年10月13日(水)12時52分

その経済理論によると、住民は建物を建て所有することができるが、土地自体はスマートシティーの共有財産になる。スマートシティーが発展すれば土地の価値も上昇し、総額で1兆ドルの価値が出れば、利息だけで500億ドルになる。その500億ドルであらゆる行政サービス、教育、医療、交通システムが無料で利用できるようになるという。

Lore氏によると、今日の米国経済の最大の問題は不平等で、今の資本主義は成長は可能にするものの、その一方で不平等を拡大しているという。equitismは、不平等を解消する新しい資本主義の形になる、としている。

都市デザインは、AppleやGoogleの本社をデザインしたデンマークの設計会社BIGが担当。ほかにもジョージア工科大学都市設計のEllen Dunham-Jones教授や、環境問題の専門家やクリエーターなど、今日の資本主義の不平等を解消するために、賛同した人たちが多数このプロジェクトに参画している。

画期的なアイデア?金持ちの道楽?

カナダのMcGill大学の地理学のSarah Moser准教授によると、世界中に1からスマートシティーを構築するプロジェクトが約150件もあるという。以前は独裁的な政権が推進するプロジェクトが多かったが、最近のプロジェクトの特徴は、テクノロジー業界で財を成した人たちが提唱していることだという。

テクノロジー富豪たちの考え方はハイリスク・ハイリターンで、まるでベンチャー企業を急成長させるようなやり方で都市開発を進めようとしている、と同准教授は指摘する。急成長するベンチャー企業のことが「ユニコーン」と呼ばれることから、同准教授はこうしたハイリスク・ハイリターンの都市開発計画を「ユニコーン・プランニング」と呼んでいる。

しかし、たとえだれも住んでいない荒野であったとしても、その土地はどこかの行政区域に属している。その行政システムの中で、開発計画を進めなければならない。

ユニコーン・プランニングの推奨者たちは、先端技術がすべてを解決できるという技術理想主義の人たちが多い。一方で、地元の自治体の政治家たちは、技術に精通しているわけではなさそう。技術主導で、現状の政治や行政、民主主義の仕組みをないがしろにするのではないだろうか。同准教授は、その部分を疑問視しており、「(成功する確率は)ほぼゼロ」と手厳しい。

Blockchains社の計画の場合、同社が政治献金で支持しているネバダ州のSteve Sisolak知事の了解は得ている。しかし同知事が提案したイノベーション特区法案は、議会や地元自治体の反発を受け、今年は廃案となった。引き続き調査、議論を継続するということだが、行政に権限を持たせないというブロックチェーンの考え方が今日の行政システムに受け入れられるのだろうか。

引き続きウォッチしたいと思う。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story