コラム

ブロックチェーンからポスト資本主義まで。米の富豪たちがスマートシティを砂漠の真ん中に作りたがる理由

2021年10月13日(水)12時52分

その後もゲイツ氏からの正式発表はないが、2019年に隣接する土地をさらに約11㎢買い増しているらしい。

この計画に対しアリゾナ州のテクノロジー企業の業界団体であるArizona Technology Coucilは「ついにアリゾナ州は、イノベーションの土地として認識されるようになる」と歓迎のコメントを出している。

ブロックチェーンをベースにした街作り

弁護士で連続起業家、現在ブロックチェーン関連ベンチャーBlockchains社のCEO、Jeffrey Berns氏も、砂漠の中に巨大都市を作ろうとしている一人だ。

同社のサイトによると、2018年にネバダ州Storey郡に6万7000エーカー(約270㎢)の土地を1億7000万ドルで購入。そこに「境界線のないハイテクコミュニティーを作る」としている。

ほかのスマートシティー構想同様に、スマートシティー内でビジネス、教育、生活がすべて簡潔するように設計されており、約1万5000世帯、3万6000人が住み、約1㎢の商業施設を利用することになるという。

この計画の最大の特徴は、ブロックチェーン技術がスマートシティーの核になっていることだ。

ブロックチェーンは仮想通貨のベースになっている技術で、すべてのプロセスを参加するプレーヤーが相互監視できるようにすることで、絶対的な権限を持つ中央組織が不要になる技術だ。

ブロックチェーンで本人認証することで、行政や医療、金融サービスの無駄がなくなる。事務コストを最小限に抑えることができるほか、各種サービスをスピーディーに提供できる。また成りすましを防ぎ、プライバシーを保護できるとしている。

その上、ブロックチェーンをベースにすることで、新しい技術を使った起業や商業活動が盛んになり、スマートシティー内の年間生産総額は46億ドルになる見通し。住民の生活は豊かになる、という。

不平等をなくす経済理論をベースにした街

米小売大手Walmartの米Eコマース部門の元CEO、Marc Lore氏は今年9月に、スマートシティーを一から作る計画を発表した。場所はネバダ、ユタ、アイダホ、アリゾナ、テキサス辺りを現在物色中で、2030年までに250億ドルをかけて5万人が生活できる約6㎢の街を作り、最終的には40年かけて500万人が住む約800㎢のスマートシティーを作る計画だという。

空には空飛ぶタクシーが飛び交い、ビルの上にはソーラーパネルや貯水タンク。野菜はビルの中の植物工場が作る。地上は、自転車と歩行者、ゆっくり走る自動運転車。典型的なスマートシティー構想だが、Lore氏の計画の最大の特徴は「equitism」と呼ばれる新しい経済理論をベースにしているところだ。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU、自動車排出量規制の最新提案公表を1週間延期 

ビジネス

NY外為市場=米ドル上昇、FOMCに注目 円は地震

ワールド

再送-〔アングル〕日銀、先行き利上げ判断で貸出動向

ワールド

ウクライナ、9日に米と修正和平案共有 欧州首脳との
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story