コラム

脳神経を制する者は身体を制す、ニューロモジュレーションの現状と未来

2019年12月10日(火)12時50分

データとしては、DNAテスト、投薬履歴、個人の健康情報記録(PHR)、心電図、筋電図、心拍変動、睡眠データなどが考えられるが、それらのデータをすべて取得して、総合的に神経刺激との関連性を解析するようになる、と同医師は予測する。たとえ1種類のデータの質が悪くても、複数の種類のデータを収集し、総合して解析すれば、質の悪いデータを他のデータが補完してくれるようになるからだ。(関連記事:マルチモーダル学習がAIビジネスの未来=米ABIリサーチ

また刺激を与えるのと同時にデータを取得すれば、刺激を与えることでデータがどのように変化するかを計測できる。その結果データの変化を基に刺激の量も変化させる。いわゆるフィードバックループを作らなければならないと同医師は指摘する。

Yukawa191209_4.jpg

つまりマルチモーダル・フィードバック・ループの仕組みが、ニューロモジュレーションの未来だと同医師は考えているわけだ。

Yukawa191209_3.jpg

その仕組みで一人一人の特徴をつかんでいく。自分の神経細胞はいくつくらいあって、どのように連携しているのか。通常はどのように作動し、どうなれば異常なのか。「それをマップ化し、神経力学の変数を作っていくことになるだろう」と言う。

そのような仕組みが可能になれば、ボタン一つでリラックスした状態に入れたり、超人的な能力を開発できるようになるかもしれない。「TransTechが目指す超越した意識状態にも簡単に入れるようになるだろう。経験したことのないような感覚体験を持てたりするかもしれない」と同医師は指摘する。新しいタイプの娯楽が誕生するかもしれない。

ニューロモジュレーションは、人間の精神にだけ影響を与えるのではない。迷走神経を使えば、身体全体に影響を与えることができるわけだ。ただしそのメカニズムは非常に複雑。AIなしには、実現できない世界だと思う。

ただそのプラットフォームができれば、ヘルスケアや医療が激変するのは間違いない。そのプラットフォームを開発した企業が、経済全体に大きな影響力を持つようになるだろう。大手AI企業が、この領域を狙っていないわけはない。

今まさに、新たなプラットフォームの覇権争いが水面化で静かに始まっているのかもしれない。

【筆者からのお知らせ】少人数制勉強会「湯川塾」の塾生募集中

20191217issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月17日号(12月10日発売)は「進撃のYahoo!」特集。ニュース産業の破壊者か救世主か――。メディアから記事を集めて配信し、無料のニュース帝国をつくり上げた「巨人」Yahoo!の功罪を問う。[PLUS]米メディア業界で今起きていること。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story