コラム

量子コンピューターでの偉業達成を誇るGoogle、それを認めないIBM

2019年10月25日(金)15時40分

量子コンピューターへのアプローチの違いで火花 Johnason-istock

<大手企業間で続く量子コンピューターの開発競争が過熱>

エクサウィザーズ AI新聞(9月24日付)から転載

量子コンピューター研究の最前線を走っているGoogleとIBMがもめている。偉業達成とする論文をネット上に掲載したGoogleに対して、IBMが、たいした話じゃないとケチをつけている。

問題の論文はネット上から削除されているので論争はいったん収まった形だが、量子コンピューターをめぐる開発競争がここまで激化しているんだなって思った。

量子コンピューターは大別すると、アニーリング方式とゲート方式の2つがある。アニーリング方式は主に組み合わせ問題を解くのに適したコンピューター。ゲート方式は、現在のコンピューター同様に、ほぼどんな問題でも解ける汎用性のある量子コンピューターだ。

<参考記事>量子コンピューターがビットコインを滅ぼす日

今回は、ゲート方式をめぐる論争。ただ、どんな問題でも解けるゲート方式量子コンピューターといっても、その実現まで、まだまだ時間がかかる。そこで汎用性を少々犠牲にしてもいいので、現行の仕組みのコンピューターよりも圧倒的に性能のいいゲート方式量子コンピューターを開発しようという競争が、大手企業間で続いている。

今回の話は、ゲート方式の量子コンピューターで、通常のコンピューターより圧倒的にすばらしい成果を出したとGoogleが論文で表明したというもの。英Financial Timesによると、世界最速のスーパーコンピューターで1万年かかる計算を、Googleの量子コンピューターは、わずか3分20秒でやってのけたという。Googleの研究者は論文の中で「待ちに待った新たなコンピューティングのパラダイムの出現を示すマイルストーンだ」と偉業達成を誇っている。

<参考記事>グーグルは量子コンピューターの開発に成功した?

1つの問題を解いても意味がない?

ところがIBMのリサーチ部門のトップであるDario Gil氏は「1つの問題だけを解くために作られた研究室内の実験に過ぎず、現実の用途に使用できない」「弁護の余地のない単なる間違い」と述べている。少々制限を加えるにしても、そこまで制限を加えたら意味がない、と反論したわけだ。

問題の論文は米航空宇宙局(NASA)のサイトに掲載されたらしいが、その後、その論文は同サイトから削除されているという。

Diginomicaというサイトによると、実はIBMも先週、最新鋭の量子コンピューターを近く公開すると発表したばかり。またニューヨークにIBM量子コンピューターセンターを開設するとも発表した。

僕がシリコンバレーで現役の新聞記者だったとき、ある企業の大きな発表の直前に、ライバル社が話題をさらうような発表をしかけるというケースを何度か目にした。今回のこのちょっとした論争も、そうしたPR合戦の一部なんだろうか。

20191029issue_cover200.jpg
※10月23日発売号は「躍進のラグビー」特集。世界が称賛した日本の大躍進が証明する、遅れてきた人気スポーツの歴史的転換点。グローバル化を迎えたラグビーの未来と課題、そして日本の快進撃の陰の立役者は――。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア高官、ルーブル高が及ぼす影響や課題を警告

ワールド

ゼレンスキー氏、和平協議「幾分楽観視」 容易な決断

ワールド

プーチン大統領、経済の一部セクター減産に不満 均衡

ワールド

プーチン氏、米特使と和平案巡り会談 欧州に「戦う準
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止まらない
  • 4
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 5
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 6
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story