コラム

「東京がアジアのイノベーションハブになる」中国人ビジネスマンが東京で起業した理由

2018年12月17日(月)16時00分

──それなら日本企業が中国人エンジニアを雇うのって余計に難しいですよね。

ドン氏
金額ベースでは中国の方が上かもしれませんが、可処分所得ベースで考えると東京で就職した方が有利なんです。例えば北京、上海のマンション価格は、東京の倍です。もしいい車に乗りたいのなら輸入車ということになりますが、輸入車の価格も東京の倍。もし食にこだわる人で、日本の米を食べたいのなら、東京の2倍から5倍の値段を払わないといけない。出産費用もそう。綺麗な私立の病院で産みたいのなら数百万円かかります。私自身、風邪をひいて外資系の私立病院に行ったら、保険適応外になるので10万円請求されました。子供をインターナショナルスクールに入れるのなら300万円以上かかります。日本の教育は公立でも素晴らしいレベルですよね。

中国で年収1000万円あったとしても、日本と同じようなライフスタイルを送ろうとすると、お金が全然足りません。また中国でどれだけお金を稼いでも、中国の大都市の大気汚染、水質、渋滞からは逃げれられません。

シリコンバレーの成功の理由の一つは、山や海などの自然に恵まれている一方で、サンフランシスコのような文化圏があるからだと思います。東京は文化でサンフランシスコに負けていませんし、自然もそう遠くはありません。

何より中国に帰省するにも、2、3時間で帰れます。韓国にも東南アジアにも近い。アジア人にとっては、シリコンバレーで起業するよりも断然便利です。

──ドンさんの会社では、エンジニアは中国から採用したのですか?

ドン氏
従業員30人ほどの小さな会社なんでエンジニアは6人しかいませんが、全員中国人です。うち5人は中国から呼び寄せました。東京での生活環境の話をしたらみんなびっくりして、中国の給与相場より低い金額で来てもらいました。

──中国人エンジニアって日本人エンジニアと同等に優秀なんでしょうか?

ドン氏 
はい。特に中国は決済、シェアリングなどの領域のビジネスモデルでは世界最先端です。そうした領域で経験のあるエンジニアは、日本企業にとっても強い助っ人となるはずです。

──決済、ペイメントの領域では、中国がものすごく進んでいるという話はよく耳にします。現金よりモバイルペイメントのほうが数段便利で、現金しか持たない日本人観光客は困るぐらいだということですよね。一方シェアリングってどんなビジネスモデルがあるんですか?自動車や自転車のシェアリングは理解できるのですが、ほかにどんなのがあるのでしょう?

ドン氏 
例えばモバイルバッテリーや傘のシェアリングです。街中にモバイルバッテリーを借りることのできる自販機があって、ある場所で自販機からバッテリーを取り出し、充電が終わると別の場所の自販機に返せます。すべてスマホ決済なので、その場で瞬時に借りることができます。傘も同じ。1つの場所で借りて、別の場所で返せます。

起業を支援する諸制度にびっくり

──なるほど。外国人エンジニアにとって、生活面での東京のメリットはよく分かりました。3つめのポイントである起業コストが低いというのは、どういう話ですか?

ドン氏
制度的な話です。先ほどの素晴らしい住環境、生活コストの話にも関係する話ですが、就労ビザを持っていて税金を納めていれば、外国人でも国民健康保険に入れます。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米シカゴ連銀総裁、前倒しの過度の利下げに「不安」 

ワールド

IAEA、イランに濃縮ウラン巡る報告求める決議採択

ワールド

ゼレンスキー氏、米陸軍長官と和平案を協議 「共に取

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story