コラム

マズローの欲求5段階説にはさらに上があった。人類が目指す「自己超越」とは

2018年12月18日(火)16時00分

Martin博士は、あらゆる宗教やスピリチュアリティーのジャンルを超えて、「悟っている」と言われている人に片っ端からコンタクトを取って、心理学や生理学などの科学的手法に基づいて聞き取り調査や身体測定を行ってきた。その数、1200人以上という。そしてそれらの体験の共通点を、論文にまとめている。

一般的に言われる「悟り」「覚醒」「ワンネス」「自己超越」「大我」「ハイヤーセルフ」などという状態は、心理学用語で「persistent non-symbolic experience (PNSE、継続的な非記号の体験)」と呼ばれている。「継続的な非記号の体験」って何のことやら意味が分からない。「言語化できないような体験」というような意味なのだろう。宗教や宗派によって「通常の自我とは異なる一つ上の意識状態」のことを示す単語や定義が異なるので、PNSEというよく分からない用語に落ち着いたのだそうだ。PNSEという用語を用いることで、インタビューやアンケートにおける宗教家などの協力を得ることができたという。

Martin博士によると、多くの「悟り人」の経験談をまとめててみると、マズローの「高原経験」はまさしくPNSEの一種だそうだ。

PNSEとはどういう状態なのか。簡単に言うと、1)自我という感覚が薄れる2)頭の中の雑念が少なくなる3)雑念が少なくなるので、過去や未来にとらわれなくなる4)雑念にとらわれないので、感情的にならない5)基本的にすべてだいじょうぶだという感覚になる、などがその特徴らしい。またPNSEといってもいくつかの段階があるらしい。Martin博士の論文を読んで、別の記事で詳しく解説したい。

同教授はまた、欠乏感に苦しむ多くの人にPNSEを体験してもらおうとオンラインの瞑想プログラムを開発している。同教授によると、同プログラムを試した70%がPNSEに到達したという。「悟りに到達するのは難しいと思われていたが、特定の瞑想方法など自分に合う手法を見つけるのが難しいだけ。自分にあった手法を見つけることができれば、比較的簡単にPNSEに到達できる」と語っている。世の中の多くの人がPNSEの状態になれば、社会は大きく変わる。本当だったらすごいことだと思う。この辺りも詳しく調べてみたい。

また同教授は、超音波を脳に当てるなどの安全な方法でPNSEを体験できる手法の共同研究も始めている。

TransTech Conferenceでは、米ニューメキシコ大学のSanguinetti博士による超音波を使ったPNSE達成の研究成果の発表もあった。発表を聞いて、超音波によるPNSE達成は既にサイエンスとしては確立しており、あとはテクノロジーに落とし込み、ビジネスとして展開するだけのような印象を持った。しかし果たして本当にそうなのだろうか。同博士の論文を読むなどして、その結果をまた記事にしたい。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米テキサス州洪水の死者32人に、子ども14人犠牲 

ビジネス

アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サ

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条

ワールド

EU産ブランデー関税、34社が回避へ 友好的協議で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story