コラム

DNAがAIに。米大が手書き数字認識に成功

2018年07月11日(水)19時12分

半導体の代わりにDNA回路を使うと人工知能は進化する Svisio-iStock.

AI新聞からの転載

手書きの数字を読み取るタスクは、初期のニューラルネットワークが達成したブレークスルーの一つ。米カリフォルニア工科大学はこのほど、半導体回路ではなくDNAを用いた回路を使って、手書きの数字の認識タスクに成功したと発表した。

論文は、7月4日、7月19日の学術誌Natureに掲載されるという。

DNAの回路を使うと、多数のDNAが同時に生成されることから超並列計算が可能になるほか、従来の半導体回路では実現困難な細胞内で働く超微小治療装置への応用も期待されている。

半導体の回路は、トランジスタ素子の回路のオン・オフを制御する機能を使って計算するが、DNAの回路は、DNAの塩基分子であるアデニン (A) とチミン (T)、グアニン (G) とシトシン (C) がそれぞれ対をなして結合する特性を利用して計算するという。

ペンキからバンドエイドまで

同大は2011年にもDNA回路を使った簡単な数種類の画像の認識に成功。その後も研究を続け、今回は典型的なAIのタスクである手書き数字認識に成功した。同大の研究チームは、半導体回路のAIが可能なタスクすべてを、DNA回路のAIでもできるように今後も研究を続けたいとしている。

同大のLulu Qian准教授は「ペンキからバンドエイドまで、分子でできているすべてのもの(にAIを搭載することで)、環境に反応し、いろんなことができる製品を開発できるようになる」と語っている。

ただウィキペディアの「DNAコンピュータ」の項目によると、「DNAコンピュータは演算は速いのだが、問題をDNA鎖の形に翻訳(入力)し、解をデジタルデータの形に変換する(出力)工程に問題がある」といったような課題がありそうだ。

今回の実験では、手書き数字の画像を10×10のピクセルで表現し、それを100個の分子に当てはめて計算。結果を1から9までの数字に分類させたという。

それにしても人間の脳で行なっている作業を半導体回路上の人工知能で真似し、半導体回路上の人工知能で行なっている作業をDNA回路が真似をするのって、なんだかおもしろい。

手書き数字が認識できるようになったということは、人工知能が得意とするほかのタスクもできる可能性が高い。これからどんなことができるようになるんだろう。わくわくする話だ。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story