コラム

マクロンとルペンの決戦につきまとうプーチンとウクライナ戦争の影

2022年04月11日(月)14時23分

混戦模様

このようにウクライナ戦争は、マクロンにとって思わぬ神風となったが、国旗効果は時間とともに薄れる。ウクライナ戦争が収束の方向に向かえば、国民の危機感も和らぐだろう。

一方でマクロンが外交にかまけ、国民生活の問題を後回しにしているように見えることに対する一部国民の不満や批判も高まっている。そうした反マクロン感情は当然ルペンへの支持に向かう。

しかも、そもそもナショナリズム対グローバリズムという問題設定に関心を持たない有権者も多い。国民の最大の関心事は、購買力の向上であり、経済や生活に関わる身近な問題だ。そこに目を向けたキャンペーンを繰り広げるルペンへの共感が静かに広がっている。

また、他の重要争点の影が薄くなっていく中で、有権者の選挙離れも懸念される。棄権・白票・無効票は、前回選挙(第2回投票)では1600万にも上った。今回は、第1回投票の投票率が低下した(前回77.8%→今回73.8%)ことに鑑み、さらにこれが増えるのではないかと予想される。

もしそうなれば、それは現職不利に働くのが常であり、結果としてルペン有利に働く可能性が高い。これまでもルペンは、欧州議会選挙など投票率の低い選挙でハイスコアを記録し、国内第一党の地位を獲得してきた。

亡霊の復活?

このような混戦模様の選挙戦の結果について世論調査の示すところ(決選投票における得票率の予想)は、マクロンが54% ~ 51% 、ルペンが46%~49%である(4月11日付フィガロ紙)。

この予想の通りマクロンが勝ったとしても、両者の差は僅差となる。その差が縮まれば縮まるほど、2期目のマクロンの政治的指導力は弱まらざるを得ない。内政面での主導権だけでなく、ウクライナ問題を含めた外交面での指導力にも影響を及ぼすだろう。

逆にルペンが勝った場合、それはフランスにおけるナショナリズムの亡霊がいよいよ生き返ったことを意味するだけでなく、ヨーロッパにおける排他的ナショナリズムの跳梁跋扈を増長させることになるに違いない。ウクライナ問題では、ルペンのフランス外交がロシア寄りの仲介に乗り出すという日が来るのかもしれない。

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学名誉教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より2019年まで東京外国語大学教授。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸、配当取りが支援 出遅れ物色も

ビジネス

午後3時のドルは156円前半へ上昇、上値追いは限定

ビジネス

中国、25年の鉱工業生産を5.9%増と予想=国営テ

ワールド

中国、次期5カ年計画で銅・アルミナの生産能力抑制へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story