最新ポートランド• オレゴン通信──現地が語るSDGsと多様性
『利他(りた)的』に、共感して生きる? ポートランド的、新しい時代へのヒント
| 押し付けない、でも要するに...やさしい気持ち
私たちの心には『自分だけがよければ良い』と考える利己の心と、『自分をすこし犠牲にしても他の人を助けよう』とする利他の心があると言います。
今、自分の生活と思考をシフトしていくために、まずは自分ことを考えて判断していくことは必然です。同時に、周りの人のことを考え思いやりに満ちた利他の心に立って、ものごとを判断していく。そんな時代に入っているという気がします。
ポートランドという、少し先進的なマインドを持った人が多く暮らすこの町。アメリカの他の都市に比べると、日本の文化に寄りそう部分は多くあります。とはいえ、基本的な奉仕、共助、文化の感覚に違いがあるのは当然のことです。
そんなこの町で、今を生きるケイシーさん。彼女にとって、利他や共感という概念や行動はどう映っているのでしょうか。
「コミュニティを再構築するためには、よりポジティブな言葉、建設的な対話による共感が基本となります。
特にこの数年は、ネガティブな偏見や人を傷つけるような言葉を無意識に吐き出す。そんな行為を多く目にしてきました。私たちは、近隣、友人・知人、そして町ですれ違うだけの人に対して、お互いに優しさと敬意を持って語り合うこと。その大切さと影響力を、もっと知るべきだと感じています。
そのためにも、まずは言葉を選ぶこと。人の言葉に耳を傾けること(無理に聞き入れる事とは違います。)そして、すこしでも協力し合うこと。これらの部分をほんの少し意識して行うことで、健全で生産的な地域・コミュニティを築く方向に進みやすくなるのです。
その時、心に留めておいて欲しい事柄があります。それは基本、人は皆違うという事実です。他の人と心から意見が一致するなんて、ほぼあり得ないでしょう。違う意見だという心持ちで、少し俯瞰してものごとを見てください。そして、その違う意見に耳を傾け意見を認め合う努力をしてください。
もう一つ、気を付けて欲しい点。それは、その人やコトの為を思って!という一方的な強い思いからの無理強いです。愛を持たない押しつけは、結果的に双方の為にならないのは明らかですから。
少しずつ、じっくりと試していってください。急に自分の考える回路を無理やり変えてしまうと、今度は自分の心の中に歪みが発生しがちですので。」
そうやさしく語るケイシーさんは、日本人と仕事をすることも多いと言います。日本の状況と日本人に対してのコメントを聞いたところ、こんな答えが返ってきました。
「あまり曖昧な表現ばかりを使わずに。出来るだけ明確な、でも相手を思う言葉と形のコミュニケーションを意識してほしいです。こんな時代だからこそ必要な、前向きな考えと柔軟さ。そして、新しい時代に生きていく上で必要となる、多分野の学び。そしてなによりも、感謝の気持ちと思いやりを忘れずにいてくださいね。」
最後に、ケイシーさんはこう共有してくれました。
「この新しい時代、特にコロナ禍で私が感じたことがあるんです。それは、『悲しみもまた美しく、それは自分のこころにとって良いことが多い』ということ。
一般的に、悲しみや苦難はマイナスの評価のみが先行してしまいがちです。
でも、悲しみは山のようなもので、険しく困難で力と忍耐を必要とします。そして、よろこびは山頂のようだと。輝かしく美しく、勝利をもたらすもの。だれでも、山に登らなければ頂上には到達できません。
悲しみもよろこびも、実は同じものだと感じています。ですから、悲しみも愛おしく抱きかかえて生きていきたい。それは喜びに繋がるものだから。」そう静かに語るその目は、なんとも言いがたく美しいものでした。
ストレスは、人を介してバトンを受け継ぐように、マイナスの感情と行動が安易にリレーされていきます。その反面、利他や共感は、連鎖していくのに時間が掛かると言われます。だからこそ、意識をしていくことが必要な時代なのでしょう。
相手の心に寄りそう。そして、共感する。心にほんの少しの余裕ができれば、考えやすくなるのかもしれませんね。その余白をつくるために、あなたはどのように今日一日を過ごしていきますか。
「本、コト、ときおりコンフォートフード」
ケイシー|she/her|ケイシー・デイビス コンサルティング 代表
やさしさの伝言リレー
歯を磨いているとき、洗濯物をたたんでいるとき...誰かのことを思い浮かべ、その人のことをどれだけ大切に思っているか。自分にとって、どれだけ特別な存在であるか。そんな思いが、ふと心に宿るときがあります。そんな時、していることを一旦止めて欲しいのです。そしてその瞬間に、その人に一言伝えてみてください。
メール、電話。ツールはなんでもいいんです。幸せの共感を互いに共有する。小さな喜びは、行動することで他の人に広がっていくもの。私はそう思います。
著者プロフィール
- 山本彌生
企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。
Facebook:Yayoi O. Yamamoto
Instagram:PDX_Coordinator
協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)