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最新ポートランド• オレゴン通信──現地が語るSDGsと多様性

山本彌生|アメリカ

ポートランド発 ホワイトハウスへ『差別とヘイトを越えた』真の多様性

Sam and Oregon Governor OAME (2).jpg

オレゴン州ブラウン知事は、バイセクシャルを公言している。元弁護士の人権派であり、州の多様性と包摂性全般において理解が高い。そんなブラウン知事のプライベートアドバイザーをも、長年サム会長は務めている。 Photo | OAME

| ホワイトハウス初となる有色人種の委員長~ビジネス協会設立へ

1986年レーガン政権の時に初の有色人種として、ホワイトハウスの全米中小企業開発機構の諮問(しもん)委員としての任命を受けます。その翌年には、初の有色人種として委員長に。それ以来、オバマ政権に至るまでの約30年間、様々な委員長や理事を任命され続けていきます。

そしてそこで得た知恵を、独自のメソッドで州や市へと適応していきます。さて、その方法は。

サム会長「まずはまっとうに、地道に誠実に、論理的に賢く、決して人をおとしめることなく。公的機関とビジネス協会で、どのようにすればマイノリティとこの社会の為になるのかという、行動を伴った発言を時間をかけてしていきました。それが、信頼へと繋がっていったのだと思っています。

うわべだけの知識や人からかすめ取った情報を振りかざしたとしても、人はしっかりと見ていて判断をしてますからね。」

山本「そこは万国共通。別の意味での包摂性ですね! ところで、このホワイトハウス選出の一年後に、ついにOAME*をポートランドに創立。その必要性と理由は、なんだったのですか。」

サム会長「当時の全米を見回しても、どこにもなかった『人種や性別、差別の柵を取り払った包摂』的なビジネス協会の設立です。白人との間だけではなく、マイノリティ間の微妙な差別や偏見を無しにすることは、マイノリティ・ビジネスの向上と発展に不可欠だった。

当時から、これからの社会には多様性なしにして地域と経済発展は成り立たないというのが明白な事実でした。ですから、そのための理解と認識、情報開示の場、プラス新たな共通文化と結束が必要だったのです。」

サム会長「この③の仕組みづくりは、必須でした。当時は、マイノリティ・ビジネスに対する人種差別、信用に値しない、すぐ破産しそうという理由から受注に至らなかった。もちろんこちら側にも、歴史的背景や枠組みの脆弱(ばんじゃく)さの問題がありました。

そこで、ではどうすればこの地域とビジネスの発展の為に、公的機関と共に協働していくことができるか。これを、賛同者と共に話合いを多く持ち始めたのです。すなわち、共通の仕組みづくりの構築と信頼獲得のプロセス作りです。それを基にして、州や市の公的機関パートナーに具体的な提案を始めていきました。」

〚*月に2回の朝会以外に、高校生若者向け起業コンペと援助、州と市の公的機関全参加のトレードショー、連邦政府局協働型・中小企業借り入れ金補助(補助貸付総額は全米トップランキング)、公的機関との公開プレゼンテーションなどの活動内容。またサム会長ご自身、州知事をはじめとする行政トップへのプライベートアドバイザーも務めている。〛

| 『マイノリティ同士のヘイトと分断』vs『マイノリティの包摂』

公的機関への協働提案と共に、マイノリティという共同体の文化を築き上げいくOAME。その信頼の要因と言えるのは、 "Everybody's in and Nobody's out" *というモットーとその実践です。

『マイノリティを一つの括りとしているから、誰でもウエルカム。だれもあなたを追い払うようなことはしない』すなわち、差別をしない協会であるという宣言です。

今、アジア系が人種差別の標的にされる事件があとを絶たないアメリカ。問題の根底が、このモットーの『マイノリティの包摂』から読み解けるのではないかと感じました。

何が、他のビジネス協会と違うのでしょうか。OAMEの協会成長の要因とは何なのでしょうか。

山本「あえてストレートにお聞きしますが、今真っただ中にある『アジア系ヘイト』の悲しい現状。これについて、どうお考えでしょうか。」

サム会長「根本的に、どのような理由や背景があろうとも、いかなる差別は認められません。憎しみや偏見が私たちのだれかに向けられるとき、それは私たちのだれか、すなわち『あなた』に廻ってくるからです。繰り返される連鎖、それを途絶えさせなくてはならないのです。」

山本「それぞれの人種に対して、それぞれの憎しみの感情が長い年にわたって抑制され、我慢させられてきたという文化社会的な背景がありますよね。人種のるつぼである、ニューヨークやカリフォルニアといった大都市。マイノリティの歴史を学んでいると、今まで長年押さえつけられていた負の感情が大変強い事がわかります。そのような連鎖が、今のアジア人差別に繋がっていると感じるのですが。」

サム会長「人は皆、違って当然です。ですから、マイノリティ間の柵を取り外した包摂の場が必要なのです。そのような場で、根本的な互いの文化、歴史、生活背景、考えの違いの相互理解を努めること。この部分がなければ、憎しみや偏見の矛先(ターゲット)が変わるだけで解決にはなりません。それぞれの違いを認識し、それを自分なりに認め受け入れる努力をしないことには始まらないのです。」

山本「そんな今の問題からさかのぼること約35年。創設時からのOAMEのモットーは、SDGs基本理念の『だれ一人取り残されない』と同じです。これを当時から謳っていた、というのが私には驚きです。」

サム会長「一般的に米国のビジネス協会は、国、人種、性別などで分かれています。それは、文化的共通点があれば理解も早まり、安心感に繋がるからです。

そんな中、OAMEはその垣根をなくした一つの包摂的(インクルージョン)に特化をした米国初となるビジネス協会を目指しました。」

山本「ポートランドやオレゴンを一気に超えて、まさしく国連レベル。その理想体制ともいえる、多様性と包摂性を持ち合わせたビジネス協会。直面した問題は多かったと想像がつきますが、その中でも何が一番大変でしたか。」

サム会長「初期段階のチャレンジとしては、人種や民族、性別等という枠を超えた前代未聞の米国初のビジネス協会を作り出すこと。そして協会の方針に賛同・信頼してもらい、会員や行政パートナーになってもらうことでした。

理想のスローガンを掲げることは、誰にでもできます。しかし、その中身と活動に一致がなければ、信頼は得られません。長い時が掛かりましたが、今ではオレゴン州にある主要都市の公的機関のほぼすべてが行政局パートナー会員です。

現行チャレンジとしては、この地域やビジネスの益になる様に、協会を運営し続けることです。パートナーになってもらって、そこで終わりではありません。公的組織の計画・方針変更がある度に、一緒に改善内容を話し合う。共に益となり発展を続けていくためには、双方が努力をし続ける* ことが不可欠です。」

〚*順応的ガバナンス=人権や環境保全などのため、社会のしくみ・制度・価値を各地域やその時代ごとに試行錯誤しながら、順応的に変化させていく協働型のガバナンス。ガバナンスとは、事業を行う中で守るべき規範や指針を決めて、社会・組織に浸透させる管理体制を指します。〛

山本「公的組織の方針・計画変更や行政パートナー会員の理解。とてもじゃないけど、一筋縄では運ばない気がします。毎回、どのように問題解決をしていくのですか。」

サム会長「当たり前のように聞こえますが、公平公正に州や市とコミュニティーの益となることを第一に考え、大人の話し合いを何度もすることです。当然、時間は掛かります。しかし過去の50年の経験から、多様性と包括性の理解を深め克服するには、これが一番有効でした。

皆それぞれ違う文化背景を背負っている中で、その社会経験と知恵を持ち寄る。さらにその枠組みや垣根を越えて、互いの言い分に耳を傾けながらしっかりと話し合う。そしてそこで出された結論は、リーダーである自分がしっかりと最終責任を負いつつ、必要な行動を取っていく。それを繰り返してきました。」

では、その築き上げてものをどう今の時代にあてはめていくのか。そしてエンディングには、サム氏からあなたへのメッセージ ....

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著者プロフィール
山本彌生

企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。

Facebook:Yayoi O. Yamamoto

Instagram:PDX_Coordinator

協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)

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