最新ポートランド• オレゴン通信──現地が語るSDGsと多様性
女性リーダー、ヘイトクライム - オレゴン州史上初『移民出身のアジア人女性 経済局長』- 差別を越えて
| やわらかな感性で、学びを重ね続け 考え続ける
成人してから、ほとんど英語も話せないままカンボジアからアメリカに渡ってきたソフォーンさん。今までの人生で、その『考える力を養うこと』と『教育の大切さ』に思いをはせてきました。
正直なところ、SDGs目標4 の『質の高い教育をみんなに』という部分は、初等教育が整っているとされる日本人にとっては、ちょっとピンと来ないかもしれません。事実、世界を見回してみると初等教育を受けられる人数自体は、確実に増えてきています。そこで課題とされているのは、教育の質の向上です。
知識を取得して成長していくことによって、自分の頭で考える能力がおのずと高まっていく。特にこのSDGs目標4は、17項目すべてに関わる目標ともいえます。
とはいえ、このコロナ禍でより一層の教育格差が生まれているのも事実です。その一つが、日本や米国の大学進学率の低下と中退率の上昇。同時に初頭教育の環境格差も、じんわりと確実に広がっています。
実は、私にとって初めて『教育格差』を感じたのは、留学時代の80年中盤のことでした。英語のレベル分けのテストをする教室の隅に一人ぽつんと、それは小さな...140cmにも満たない30代と見受けられる女性がたたずんでいるのです。不思議に思っていると、教員が「教室番号が違うよ」と優しく手を引いて出て行こうとします。そして、教室の生徒に一言。「彼女はカンボジアからの難民で、自国の言葉でも10まで数えられないし、読めない。だから、教室の番号が読めずに間違えたんだ。」この言葉が、私の心に強く焼き付きました。それは、留学生数人が、自分の通学用BMWの型を比較して、季節ごとの5つ星旅行を自慢をしている最中だったからかもしれません。
80年代のカンボジアのイメージは、やはり『難民』です。民主主義と生命保持を求めて内戦紛争真っただ中にすべてを失い、服数枚を背負って逃げまどう。乗り込んだ漁船などの小舟上でも、多くの命が失われるのを目の当たりにしながら、奇跡的にアメリカにたどり着いた人たちです。
ソフォーンさんは、この時代から少し後に難民とは少し異なる犠牲の元で、2000年にアメリカにやってきました。それは、両親親戚による命がけともいえる、経済援助と米国教育との引き換えでした。将来を見据えて、教育を受けることでしか確かな未来を得ることはできない。この言葉に、留学時代の出来事を思い出して強くうなずいた私です。
爪に火を点すような生活のなか、比較的学費の安い地域のコミュニティーカレッジで英語を学び、必死の思いで4年生大学に転入。その間中、働きながらMBAを取得します。同時に、移民やマイノリティー関連のボランティア活動を続けていきました。その原動力となっているのは、犠牲の上にある恵みだといいます。
「アメリカは、確かに多くの問題を抱えています。でも少なくとも、私の母国に比べれば多くの人がチャンスを得ることができる国です。移民、難民、どの様な形であれ『自国から出る選択肢』があること自体が奇跡なのです。」
実はあまり、このような苦労話しはしたくない様子の彼女。その理由は、苦労話しを売りにしている残念な人が沢山いるから。生きていればどのような形であれ、みな苦労をしているのですからと穏やかに微笑みます。
「もちろん、全ての努力が報われるほど、甘い世の中ではありません。でも、一人でも多くの人や子供に、質の高い教育の大切さを伝えたいのです。アジアの小国からの移民、それもアジア人女性が質の高い教育を受けて懸命に生きていけば、チャンスを手にすることも多々ある。そう身をもって伝えていきたい、そんな思いからなのです。」
必要な時、そして現在のような有事にいかに考え、どのような意思決定し、そこからどう学んでいくのか。これが、質の高い教育の必要性に繋がっているのではないでしょうか。
とはいうものの、質の高い教育には資金が必要です。現在のコロナ禍、長引く不況であえぐ家庭にとって、学費ローン*を組んで大学に行く余裕がないというのも現実です。国や地域のリーダーが率先して、これからの教育のあり方の枠組みを真剣に考える必要があると感じています。
|経済促進、日本との貿易強化、すべて多様性&包摂性を基盤に
このコロナ禍で、特に目標8の『働きがいも経済成長も』に焦点が当てられるようになっています。
「『働きがい』のある環境。これは、すべての働く人が心も体も共に安全を感じること。そして、職場環境で尊重されていると感じられることが基本です。働く人の声に耳を傾け、良い案を聞き入れ、尊重され、誇りに思える場所でなくてはならないと考えています。」
この州経済開発局は、オレゴン州全体のビジネスの成長と支援が主の目的。雇用を増やし、経済を多様化しながら繁栄を高めることに力を注ぎ続けています。また、米国連邦政府局との連携によって、多種多様のビジネスのサポートをしているのも州政府機関ならではです。
『経済成長』として、以前から力を入れていた『地方都市の経済格差への対処』と『日本との貿易続行と強化』*。そこに多様性と包括性を取りいれることは、最優先課題だといいます。そして、『日・オレゴンの女性リーダーシッププログラム』も強化継続するとソフォーンさんは話します。
そしてこれからも、より一層力を入れていきたいと考えているのが、州知事室・経済局主催で2017年に発足開始した女性リーダーシップ プログラム* です。
前回の開催は、オレゴン州知事の訪日に合わせて帝国ホテルにて開催されました。アメリカ大使館、外務省、州関連の女性リーダーやメディア各社が参加。
特にフォーカスされたのは、女性の社会進出においてネックの『女性が女性の足を引っぱらない』ことへの意識。そして、『男性の参画によって、初めて現実的に機能する女性リーダーシップ』という点です。
「このプログラムは、オレゴン州全局と州知事室をあげて継続強化していく分野の一つです。次回は、さらに進化した内容にすることを新たな目標としています。多様性という観点から、これからのオレゴンと日本の益となるプログラムを基に、皆さんと実りあるお話しをすることを楽しみにしています!」
そんな多忙な日々をおくる、ワーキングマザー。そのヒントと必要不可欠なコトとは?
著者プロフィール
- 山本彌生
企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。
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協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)