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イタリア事情斜め読み

ヴィズマーラ恵子|イタリア

イタリア初女性首相メローニ政権発足から1年、移民問題・本国送還に重点を置いた「新・移民政令」

2023年9月17日 – ジョルジア・メローニ閣僚評議会議長とウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長がランペドゥーサ島を訪問した。画像出典:イタリア政府閣僚評議会公式サイトよりavailable under licence CC-BY-NC-SA 3.0 IT

イタリア初代女性首相ジョルジア・メローニ就任から1年が経過した。
政権が交代する前のイタリアは長きにわたり、中道左派連合や新興政党など左派系ポピュリスト政党による連立政権で勢力を維持してきた。既存体制を徹底的に批判することで政治に不満を抱いている大衆からの支持を獲得していた。
左派政権は、移民問題に関して右派政党ほど排他的でないにしろ、移民への寛容さなどを見せつつ、左派リバタリアン的価値観で間違ったグローバリズムを繰り広げ、イタリアの経済成長を停滞させ、確実に衰退させていった。

言うだけタダの強気な脱EU路線、大失敗に終わった期待外れの中国との一帯一路構想、財政の見通しが甘すぎるばら撒きベーシックインカム(最低所得制度)、ますます加速した少子高齢化にも関わらず、62歳以上の国民が38年以上の勤続年数があれば直ちに年金が受給できる形に制度を変更したクオータ100(年齢数+納税年数=100)、事実上年金制度は崩壊し財政負担は増加し破綻一歩手前、クオータ100導入を機に公務員が大量早期退職して年金受給者になるという事態へ、そこへきて降って湧いた未曾有の緊急事態が発生、新型コロナウイルスによるパンデミックで欧州初のロックダウンは、イタリア経済に甚大な影響を与えた。また、緊縮財政により、保健医療費や施設や病床が大幅に削減されていたことが原因で医療崩壊を招いた。

左派ポピュリスト新興政党=ズブの政治素人集団

が犯した数々の失敗を挙げるときりがない。

山積みされた課題と問題点を現右派政権のイタリア初女性首相のメローニが一つ一つ軌道修正していく作業をコツコツと実行し、早いもので1年が経過した。

イタリア在住者である私の体感では、メローニ首相はもう何年もイタリアを率いているように感じるが、政権発足後まだ1年、そう、ようやく1年を迎えたばかりだという現実に驚きを隠せないでいる。

中道右派連立政党の選挙演説では、マッテオ・サルヴィーニ(現副首相兼インフラ大臣)が「港湾閉鎖」路線を誇示し、ジョルジャ・メローニがイタリアへの不法移民の到着を阻止するための「海上封鎖」を実行するなどと、過激な"移民政策"を前面に打ち出したマニフェスト選挙を通じ圧勝、政権交代を実現させた。

しかし、この選挙公約は実際のところ、実現できているだろうか。

中道右派はイタリア内務省が繰り出す容赦ない数字に対処しなければならない。
デマゴギーが終わり、スローガンが使い果たされたとしても、中道右派政権がイタリア国民から完全な権限を与えられている今、どのようにして政策を実現するのか、むしろ全く実現していないことを証明する数字だけが虚しく物語っている。

イタリア内務省の公式サイトより【市民自由移民局:上陸と移民の受け入れ統計データ】によると2023年1月1日から9月28日まで、これまでに合計133.170人の移民がイタリアに上陸した。
この数は、陸路での到着ではなく、上陸(特定された人)のみがカウントされている。
9月11日〜13日までの3日間だけで、1万人以上の不法入国者がランペドゥーサ島に到着し、一時移民収容センターであるホットスポットは崩壊した。

これは実質的に昨年の2倍である。
パンデミックによりイタリアへの出発が制限されていた2022年の同時期および2021年と比較して、3倍の数である。


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出典 イタリア内務省市民自由移民局:上陸と移民の受け入れ統計データより 

移民の出身国はギニア(14.7%)が最も多く、次いでコートジボワール(14%)、チュニジア(11.3%)、エジプト(8.4%)、バングラデシュ(7.5%)となっている。

移送件数も容赦ない。

「イタリアからEU加盟国に送られた「ドゥブリナンティ」(ダブリン規則に従って先着国で登録された移民)の移送要請4,015件のうち、最初の8か月で移送が行われたのはわずか22件だった。

さらに、欧州選挙に向けた選挙キャンペーンの匂いを嗅ぎつけて、イタリアからの移民を受け入れないことを決定し、それぞれ国境を封鎖したフランスとドイツの政府の硬直性にも注目しなければならない。


| 新「移民政令」

北アフリカからイタリアへの移民の流入が増加している中、9月27日(水曜日)、イタリア閣僚理事会は移民に関する新たな政令法を承認した。
不法移民に関する法律第3号で本国送還に重点を置く「移民政令」である。

新たな措置は、治安上の問題を引き起こした者や身元、特に年齢に関する虚偽のデータを申告し、未成年者であると偽った者を本国送還することをこれまで以上に促進するというものだ。

マッテオ・ピアンテドーシ内務大臣は、新たな規則は未成年者の保護など欧州の法律に準拠すると強調したが、すでに人道団体からは批判も出ている。

これは、いわゆる「クトロ政令法」の追加修正で、本国本国送還のための拘留センター(CPR=Centro di Permanenza per il Rimpatrio) での滞在期間を3カ月から18カ月に延長拡大した。

あらゆる合理的な努力が払われたにもかかわらず、外国人側の協力不足や第三国からの必要書類の入手が遅れているなどの理由で排除作業が長期化した場合、追放対象の移民の滞在は最長18か月まで延長されるという政令に次いで、今回の新「移民政令」は、メローニ政権が承認した3度目の移民政令である。

※クトロ政令法とは、前左派政権(第二次コンテ政府)による過度に拡大された移民特別保護に関して、災害や医療のための居住許可を最小限に制限し、特別保護の廃止と居住許可を取り消すと修正したのが「クトロ法令」。
庇護の付与に関する新しい規定が含まれている。

※クトロ法について詳しくは、関連記事【イタリア事情斜め読み】
イタリア移民急増で非常事態、収容施設は民間企業が管理する巨大ビジネス、その闇と実態を参照

| 照準を合わせる未成年者

新たな措置の下では、警察は非正規移民の年齢を確認し、未成年であると申告する若い移民が嘘をついていないかを確認するための権限とツールが強化されることになる。

この法令は、公安当局に対し、イタリア到着後ただちに少年裁判所の許可を得て、「身体測定の実施」、すなわちレントゲンを含む年齢を確認するための医療処置を手配する権限を与えている。

移民が年齢を虚偽申告したことが判明した場合、公務員に対する虚偽申告の罪に対する罰則は、「追放」という行政措置に置き換えられる可能性があるという。

したがって、この政令は、現在施行されている2013年の政令の規定を修正するもので、これにより、移民の年齢確認はさまざまな分野の専門家によって適切な環境で行われなければならないという欧州指令が置き換えられることになる。
可能な限り侵襲性の低い手順を使用して、文化媒介力(ぶんかばいかいりょく)が必要となるだろう。

※文化媒介力(文化メディエーター)とは、ある目標に向けて協働すべき異文化の集団や組織をつなぎ、その目標達成に寄与する力を指す概念。

さらに、この規定の中には、16歳以上の未成年者を90日を超えない期間限定で、未成年者の受け入れを担当する施設ではなく、成人専用の受付センターに預ける可能性も含まれている。

この措置は、複数の地方市長が現在専用の構造物が利用できないことに不満を抱いていることに対応するものである。


| 治安の改善のために

この法令の主な目的は本国送還を増やすこと

「公序良俗または国家安全上の重大な理由」の場合には、無期限滞在許可を所持している者も国外退去となることが予想される。

警察本部はまた、公の秩序に危険をもたらす可能性があると考えられる場合、除名に異議を申し立てた者の再入国を拒否する決定を下すこともできる。

立法令でも定められている本国送還収容センター(CPR)は、「国防と安全保障を目的とした施設として」と、宣言されており、同政令第21条では、不法移民の収容と本国送還のための施設建設の特別計画のために、2023年は国防省の管轄官庁を通じて2,000万ユーロ(約31億5,800万円)の資金が割り当てられるという。


※ここでの"施設"とは、例えば空港、ミサイル基地、弾薬庫、兵舎、海軍基地などが「特定の目的で国防を目的とした工事」の一部のことである。




イタリア閣僚評議会議長官邸公式YouTubeチャンネルより
2023年9月17日ランペドゥーサ島、伊メローニ首相とフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長の声明

| 移民のフロー、原因と結果

今後数十年間で、イタリア国内および国外への移民の流れは、さらに増加すると予測されており、毎年約230万人が自国を捨てて、先進国(南北移住)と他の開発途上国(南南移住)の両方に向かうことになる。

アフリカでは、国際移民の半数以上がアフリカ大陸内で移動していると推定されており、彼らは主に戦争、迫害、自然災害、その他の災害によって引き起こされた難民である。

国連によれば、現在、2億1,500万人以上が出身国以外の国に在住しているという。

そして、7億人以上が最貧の農村地域を捨てて、自国の都市への移住を余儀なくされている。

人口動態は、貧しい国では出生率が高く、先進国では出生率が低いという特徴がある。グローバル化は、国から国への移動を容易にする一方で、貧しい国から経済的に発展した国へ人々を強制的に移住させる経済的不均衡を是正することができない。

民族的または政治的紛争が、時には少数派の人が、都市や村全体を放棄することを余儀なくされ、そして最後には祖国自体を失うこともある。

このタイプの移民が「難民」として定義されるのだ。

移民の流れは、異なる国家間の関係だけではなく、文化的、そして何より社会生活においても常に重要な事実である。
主な原因としては、人口と資源の間での不均衡によって表されている。これに社会文化的原因が付加されることが非常に多く、主に出身国の民族的、政治的、宗教的対立から構成される。

人々を移住に駆り立てている要因は、貧困、飢餓、失業、低賃金、周期的な自然災害、そして戦争である。

政治難民の問題は、頻繁な地域紛争、内戦、基本的人権侵害により、特にここ近年ではますます劇的な形で表面化していくだろう。

第三世界諸国の人口圧力と一部のより豊かな国では、人口の高齢化により、移民の流れの重要性がさらに高まっている。移民の統制の問題は80年代から不法移民を含む非EU市民の数が漸進的に増加しているイタリアにとって、今や中心的な話題であり、深刻な問題だ。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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