World Voice

イタリア事情斜め読み

ヴィズマーラ恵子|イタリア

イタリアはロシア依存脱却なるか、本当の値上げは5月中旬から

iStock- AlexSecret

| ヨーロッパのロシア依存

実際、欧州連合全体では、ガスと石油の輸入だけで、ロシアへ

1日に約10億ユーロ(約1326億円)を支払っている。

ロシアのガスは、ウクライナ(Soyuz)、ベラルーシ(Yamal)、バルト海(ノルドストリーム第1ライン)、黒海(ブルーストリーム、トルコストリーム)を経由して西ヨーロッパに入ってきている。
過去20年間で、効率の向上と再生可能エネルギーの成長、そして2020年のパンデミックにより、ヨーロッパの消費量は10%減少した。
しかし同時に、英国とオランダのガス田の漸進的な枯渇により大陸の生産量も減少し、年間約2,900億立方メートルから2,000億立方メートルになった。
その結果、パイプラインを介したロシアの天然ガスと液化天然ガス(LNG)の使用が増加していき、国際エネルギー機関(IEA)の計算によれば、2021年に約1,550億立方メートル(ガス輸入の45%、全消費量の40%に相当)のロシア産ガスが欧州連合に輸入されることとなった。

旧ソビエト連邦との輸入契約は60年代後半に始まり、西側とイタリアが高額な中東の石油価格に代わるものを見つけたのがまさしくロシアであった。
欧州とロシアのガスの歴史は70年代に始まった。

2000年以降、プーチンは2006年と2009年のウクライナ危機で、ガスを政治的手段として利用し、常にシベリアから西にスムーズに送ってきた。
西側欧州は、最終的、壊滅的な最悪シナリオでさえ、ロシアがヨーロッパへの供給を完全にストップさせ、削減するなどということは、微塵も考慮されてこなかった。

とにかくロシアへのエネルギー依存を削減しようというのが国際的視点でのシナリオであろう。ロシアにウクライナでの軍事作戦に資金を提供しないためにも、ロシア産のメタンの供給を減らすことが必要だ。
それらをリセットしロシアからガスを輸入しない、依存からの脱却を目指す欧州は、10年以内にゼロにするという目標は一応は立てている。


イタリアのメタン需要の38%はロシアから来ており、年間では290億立方メートルのガスの量である。エネルギー源の多様化は近年増幅されてはいた。
ロシアとの緊密な関係を解体する政府の取り組みは、ウクライナの侵略と同じ日に始まり、迅速にロシアに替わる国からのガスへと交換されなければいけなくなった。
そこで、イタリアは、ロシア産のガスの代替えとして、アルジェリア、リビア、モザンビーク、アンゴラからの新しい供給先と契約を結び始めた。
ルイージ・ディ・マイオ外務大臣は、アゼルバイジャン政府と新たな合意を結び、タップパイプラインを通過してトルコ、ギリシャ、アルバニアに向かうメタンの流量を95億立方メートルに引き上げた。

現在、プーリア州にあるメレンドゥーニョ上陸地点では、年間最大70億立方メートルに達した。
イタリアへの供給に25億のメタンが追加されたが、今後数か月で最大容量まで「引き上げる」ことができるようになるという。

また、ディ・マイオ外務大臣は、主要なガス購入企業であるイタリアの石油・ガス大手ENI社と協力して、多数の供給国を想定していると発表した。
それは、ドラギ首相が個人的に過ごしたアルジェリアだ。
ドラギ首相は、アルジェリアのアブデルマジドテブーン大統領との電話会談の後、両国間のエネルギーパートナーシップを復活させた。

| ロシアがどれだけルーブルを集められるか

ロイターによれば、2021年に輸出されたガスと石油からのロシア中央銀行の収入は2400億ドルに達した。この天文学的な価格のうち、ガスだけで約1,000億ドル(約29兆4,230億円)を占めるという。
ブレント原油は今月に入って1バレル139ドルまで上昇し、ガスのMWhは(100ユーロ以上)、ロシアはこのバレルの並外れたスポット価格(1バレル100ドル以上)など資源価格の高騰が追い風となり、毎日10億ドルから12億ドルの収益がある。
エネルギーの支払いは、まだロシアに対しての経済制裁の対象となっていないため、いまだにロシアに支払っている。それらは、ウクライナでの戦争で消耗した軍費を返済できる十分な額である。


| ロシアに最も依存しているのはどの国なのか?
仮に、ロシアが天然ガスのパイプを閉鎖したとする。

そうすると、欧州の各国が同じように危機に陥るというわけではない。
例えば、デンマーク、イギリス、ベルギー、スペイン、ポルトガルは、まったく影響を受けないか、最小限の影響しか受けないだろう。
一方、東部諸国はほぼ完全にロシアに依存しているが、ガスの輸入量は非常に少なく、石炭や石油などのエネルギー源に移行することはそれほど問題ではない。
フランスは常に原子力に焦点を合わせており、ロシアのガスへの依存度は低い(80億立方メートル未満、輸入の17%)。
欧州で最も多くロシアに支払っているのはドイツで輸入量の51%に相当する430億立方メートル。
2番目がイタリアである。
290億立方メートル、または輸入する総ガスの40%。1550億立方メートルのガスを一晩でどのように交換するかという問題は解決不可能になることは明らかであり、中期的にも非常に困難になると言われている。
国際エネルギー機関(IEA)が先週公表した10点計画によると、1年間で約500億立方メートルを削減することは可能であるが、見通しは楽観的であるように思われる。

ロシアに次ぐヨーロッパのサプライヤーはノルウェー。
ノルウェーのジョナス・ガール・ストア首相は最近、「ガス生産はすぐには成長できない。」と問題を述べた。
イタリアがガスの供給国であるアルジェリア、リビア、オランダ、そして最近ではアゼルバイジアンで抱えているのと同じ問題で、原材料が少なくガスの生産、抽出ペースが変化し鎮静化してしまうのが現状である。
アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領は、2月初旬にエネルギー担当EU委員会のカドリ・シムソンに提案し、リビアやアゼルバイジャンへより大きなコミットメントを寄せている。

原産地別天然ガスの消費割合.png

| ロシアからの脱却、代替え案タンカーで運ばれる液化天然ガス(LNG)

ヨーロッパの場合、ロシアエネルギー資源の依存から脱却する最速の方法は、再ガス化装置付LNGタンカー船を利用した海上天然ガス「液化天然ガス(LNG)」の流量を増やすことだ。
2020年のヨーロッパの主要サプライヤーはカタールで、約300億立方メートルだった。次に、米国(25.6)、ナイジェリア(14.6)、アルジェリア(13.9)。ここ数週間、いくつかの西側外交使節団がカタールの実業家、王族のシェイク・アル・タニ氏に取り入っているが、タニ氏の答えは明白である。
ガスはすでに主にアジアのバイヤーである中国、そして日本との間で長期売買契約をしているからだ。
ヨーロッパ仕向けとしての「液化天然ガス(LNG)」は、10〜15%しか利用できない可能性があるという。

当面は、ロシア産ガスに依存しているヨーロッパを制限するという戦略的目的を持っている米国が、より多くのタンカーをヨーロッパの市場に押し出してくれれば良いことである。
2021年の最初の10か月で、約200億立方メートルの液化天然ガスが米国から到着した。
しかし、米国の液化天然ガスには価格の問題がある。かなり高額であるため、ヨーロッパの価値観はここ数週間で変わってきたようだ。
また、別の障害もある。それは、インフラが不足しているため、このLNGガスをどこで受け取ればいいのか、要するに再ガス化装置付LNGタンカー船を受け入れるプラントが無い。欧州はてんやわんやである。
ドイツには再ガス化プラントはない。スペインは多額の投資を行い再ガス化プラントを6つ作った。
フランスは80億立方メートルしか通過できない。
イタリアには、カバルゼレ、パニガリア、リボルノの3つがある。

イタリア国内輸入.png


| ドイツとイタリアの計画の比較

結局、ドイツは、ロシアのガスの重量を減らすための最も直接的な解決策の1つとして、昨年停止した3つの原子力発電所の再開を検討し、またその他3つの原発は2022年末までに閉鎖する計画であったが、それを「段階的に廃止」するという計画の変更をリントナー財務相が発表した。
これらは、ロシアからの供給の約10%である40〜50億立方メートルの天然ガスを相殺できる計画である。

イタリアについては、昨年、760億立方メートルのガスを消費し、29億立方メートルはロシアから輸入された。
今後は、政府がパイプラインで行っている対策により、国の生産量が20億立方メートル増加するはずである。さらに15億立方メートルの貯蔵、そして、アルジェリアとリビアからの100億立方メートルの追加生産による貢献(アルジェリア駐イタリア大使アブデルクリム・トゥハリアによると、20億は今後数か月ですでに利用可能であり、他は間もなく利用可能になる)。
次に、既存の再ガス化装置で使用されていない液化天然ガス(LNG)が45億立方メートル容量分の貯蔵がある。
国家エネルギー戦略で想定されているのは、年間8GWの再生可能エネルギーを設置すること。
それでガスで作られる電力を25億立方メートル減らすことができる。一方、ドラギ首相は数日前に石炭火力発電所ラ・スペツィアのエネル1つを一時的に再開することを発表した。
理論的には、イタリアに7つある石炭火力発電所をフル稼働させると、年間80億立方メートルのガスを節約できるが、再起動が困難なため、再稼働にかかる費用は推定で40億ユーロが必要だという。
石炭の半分はロシアから輸入されているものであり、迅速にそれを交換する必要がある。

天然ガスはイタリアのエネルギー需要(すなわち、電力生産、産業および民間消費)の40%をカバーし、 43%はロシアからのものである。
石油はさらに3分の1を占め、およそ10パーセントはまだロシア起源である。
現在、石炭は最小限に抑えられてはいるが、イタリアのエネルギー要件の3.3%に相当する。イタリアが使用するその石炭のほぼ60%は常にロシアから輸入したものである。


| イタリアはガソリンを値下げする
3月22日から施行される法令(-0.25ユーロ 、4月末まで)

どう見てもこのガソリンの高騰は異常な状況で、エネルギー市場での紛争と前例のない変動が続いている。それに起因する検証と管理の責任が大きいことを考慮して、当局はガス販売費の補償を可能にする料金表を変更した。」と、ステーファノ・ベッセギーニ (エネルギーシステム研究所長兼CEO)は説明した。

国民に利益をもたらす削減は、政府との制度的協力のおかげでも可能になった。法令n.17/22の規定によると、四半期全体でガスのVATが5%削減され、介入に必要な追加のリソースが割り当てられる。
約3,000万の家庭と600万の企業のユーザーの負担が軽減されるというので、大変助かる。
リソースの一部は、社会的ボーナスの強化に割り当てられ、次の四半期には電気のインセンティブとして、より多くの困難家族合計300万世帯、ガスのインセンティブは200万世帯に付与される。
1世帯あたり€8,265から€12,000になり、3人以上の子供を持つ家族の場合は€20,000付与されるという。

2021年との比較としては、2022年の第1四半期である前四半期との比較では減少が明らかで、前年度との支出の差は依然としてかなりのもの。
最終的な効果としては、電気代の場合、一般的な家族のローリング年度(2021年7月1日から2022年6月30日まで)の支出は約948ユーロで、前年の12か月( 2020年7月1日-2021年6月30日)に比べて83%増加するだろうと言われている。
同期間のガス代は、一般的な家計支出で約1,652ユーロであり、前年の同等の12か月と比較して+ 71%の変動が予測されている。

ガソリンボーナス、民間企業の従業員には最大200ユーロ:その仕組み
経済開発省のウェブサイトに記載されているが、「民間企業が従業員に無料で、労働者1人あたり200ユーロまでのガソリンボーナス」というものが政府より給付されるが、これは民間企業に与えられるものであり、企業が従業員にそれを出してあげるか、出さないかはその企業次第である。


| 本当の値上がりは5月中旬から?
ロシアは小麦、ライ麦、大麦、トウモロコシの輸出を禁止になったら...

モスクワに拠点を置くロシアの非政府系通信社、インテルファクス社が、

3月15日〜6月30日まで、ロシアは小麦、ライ麦、大麦、トウモロコシの輸出を禁止する可能性がある。

と報告した。

そこで、イタリアでは農業省が産業貿易省と一緒に、ロシアからの基本的な穀物の輸出の一時的な禁止に関する政府法令の草案を作成するなど対応に追われた。

スイス連邦政府は、核戦争が発生した場合に住民を保護する実際の予防計画という「ガイドライン」をウェブサイトに公開した。
そこで、スイス国民に向けて "十分な食料と水を蓄えておくように"という警告を スイス連邦政府がしていると・・・

3月14日に、これをイタリアの大手メディアが報じ、イタリアの国民が焦り、一時的にみなスーパーに走り、買い占めが始まったのだ。
少々パニックであった。
しかし、次の日には、ガラガラになったトイレットペーパーの棚もパスタや小麦粉の棚も商品は補充されており、4月現在もスーパーで商品が品薄になるようなことはない。本当に、あの日、"3月14日"はなんだったんだ?と思う程である。


ウクライナがヨーロッパの穀倉地帯と呼ばれているのに対し、ロシアは世界の穀倉地帯と呼ばれている。
イタリアは軟質小麦の必要量の64%をロシアから輸入している。
イタリアの場合、ウクライナとロシア両国からの農産食品の輸入は、軟質小麦、トウモロコシ、油糧種子、肥料がある。
イタリアはウクライナから14万2000トン、ロシアから11万6千トンを輸入しているのである。
イタリアの軟質小麦の総輸入量の約5%を占めており、数量が不足していると連動して価格は上昇する。

ボローニャ商品取引所によると、昨年3月18日の調査時より軟質小麦の価格は1か月で33%上昇したと言う。
ロシアの侵攻が始まって、黒海とアゾフ海の港に寄港する船舶にかなりの影響が出た。2月27日にアゾフ港に軟質小麦を積んだ船90隻が出港できなくなってしまったのだ。

船内には、イタリアのパスタ工場がオーダーした軟質小麦が積まれていたが、最終目的地がイタリア行きだった船が少なくとも15隻、ケルチ海峡に停泊したままとなっている。
オーダーした軟質小麦が届かないので、カナダから輸入することにしたイタリア企業、カナダから到着した小麦が思ったよりも高額であったことは想定外であっただろう。なんと、アゾフ海からの予想より35%高い金額を支払ったと言う。
なので、粉の価格を約15%引き上げる必要があったのだ。それに合わせ、幅広い商品の価格が引き上げられている。


イタリアは家畜に与える餌の主要材料であるトウモロコシの53%はロシアから、そして、20%をウクライナから輸入していた。

トウモロコシ

がイタリアに入ってこなくなった。そうすると、どう言うことが起こるかというと、
ロシア市場とウクライナ市場の封鎖で、4月に播種(はしゅ)すらされないリスクがあるため、トウモロコシが作れなくなる。その問題は2023年末まで続く可能性があると予測されている。
ウクライナはイタリアにとって2番目に大きいトウモロコシの供給業者である。
昨年、イタリアはウクライナから110万トン(ロシアから10万5000トン)のトウモロコシを輸入した。総輸入量の15%を占めており、1ヶ月で41%の値上がりを見せているというのが現状である。
トウモロコシは動物飼料の生産に不可欠だ。トウモロコシが不足するということは、動物たちの餌が不足するということに繋がり、その結果、肉のコストが上昇するという負のスパイラルに突入する。
CIA-Agricoltori Italianiによると、例えば、これまで牛肉1キログラムが12ユーロ(約1600円)だったものが、約15ユーロ(約1980円)になり、肉の価格が400円値上がりするという。
サーロイン肉は約25ユーロになり、ステーキはすぐに20%の値上げになる可能性がある。

この影響は、あの日、"3月14日"から約7〜8週間後に明確になるだろうとも言われている。
つまり、色々なものの価格高騰、本当の値上がりは5月中旬頃に顕著に現れるだろうとイタリア農業連盟(CIA-Confederazione Italiana Agricoltori)は警鐘を鳴らしている。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

Ranking

アクセスランキング

Twitter

ツイッター

Facebook

フェイスブック

Topics

お知らせ