イタリア事情斜め読み
NATOが東側の防衛を強化、「戦略的コンパス」4つの柱とは?
| ゼレンスキー大統領がイタリア議会でスピーチ
3月22日(火曜日)ウクライナのゼレンスキー大統領がイタリア議会でスピーチをした。
ある国の国家元首(戦争中)がイタリアの議会でスピーチするのは、イタリアの歴史上初めてである。
ビデオがウクライナのゼレンスキー大統領と繋がった直後から、長いスタンディングオベーションが始まった。
鳴り止まぬ拍手、ゼレンスキー大統領は少し照れたように歯に噛む笑みを一瞬浮かべ、少し感傷的な表情を浮かべた。そして、12分間に及ぶスピーチが始まった。
ゼレンスキー大統領が最初に発したフレーズは、「何万もの家族が破壊された」であった。
殉教者の都市であり、その象徴であるマリウポリの街の状況を話し出した。
「ロシアの侵略は私たちの国を破壊している。ウクライナの人々は軍隊になった。死者は集団墓地に埋葬され、何日もの間、残忍な包囲下にあるマリウポリはイタリアのジェノバと同じくらいの大きさの街です。ジェノバが完全に破壊され廃墟だけが残ったと想像してみてください。ヨーロッパにおいてこれらの行動はナチスによってのみ実行されました。これはただ一人の人によって企てられた。この戦争を辞めさせるにはあらゆるすべての事をする必要があるのです。」
と、イタリア人の想像力をかき立て、琴線に触れるようにウクライナの民の悲劇を描写しようとするのが、ゼレンスキー大統領のスピーチの特徴であり真骨頂とも言える。
ウクライナ・マリウポリ: 面積 166 km2、人口(2007年調べ)498,600人
イタリア・ジェノヴァ:面積 243.60 km2、人口 (2019年調べ) 569,184人
イタリアのマスコミは、ゼレンスキー大統領がナチスファシズムに対するイタリアの抵抗について言及するスピーチをするのではないかと予想していたが、それはなかった。
その後、ゼレンスキー大統領は、
「目的はウクライナではなくヨーロッパであり、あなた方の政治や価値観を管理することである。ウクライナは、ロシア軍がヨーロッパに参入するための唯一の門になったのです。」と、"プーチンの真の目的"について、注意を向けるような流れに持っていき、核心についた話を付け加えていた。
最後に、提供された支援に対してイタリアに感謝の意を述べた。「あなた方は70,000人以上の難民を歓迎し受け入れてくれた。その多くは子供たちであり、戦争を逃れてイタリアに避難した最初の女性はイタリアで出産しました。あなた方は私たちと痛みを分かち合った。」と締め括った。
イタリアのドラギ首相は、それに呼応し、ウクライナの人々の英雄的な抵抗を称賛した。「ウクライナは国を守るだけでなく、私たちの平和と安全を守っています。イタリアはあなたに深く感謝しています」とスピーチを始めた。
「非難に直面してもイタリアは背を向けるつもりはない、分裂を望んでいたロシアを前にし、イタリアはEUの一員として団結していることを示した。オリガルヒの8億ユーロ相当の資産を凍結するなど、重要な政治的コミットメントを実行している」といった内容を発表し、「イタリアはウクライナが欧州連合に加盟することを望んでいる。武器を送ることに賛成だ。」とも発言した。
3月21日(月曜日)ロシアのミサイルは、NATO(北大西洋条約機構)の東のフロンティアであるポーランドから20キロ離れたところに落下した。
それを機に、NATOは東側の防衛を強化し、ロシアとの国境には連合国が控えているのだという存在感を高めることにした。
スロバキア国防相のヤロスラフ・ナド氏は、
「大西洋同盟の最初の軍事部隊がスロバキアに到着し、パトリオットミサイル防衛システムを配備し、今後も継続される。」と発表した。
最初にスロバキア中央部のスリアチ空港に配備した。このシステムはドイツ軍とオランダ軍によって運用される。
また、スロバキア議会は、国内の2,100人のNATO同盟国の男性の駐留についても承認し、GOサインを与えた。
英国もまた、ポーランド領空を保護するために、100人の軍隊と一緒に英国陸軍のスカイセイバー防空ミサイルシステムをポーランドに配備することを約束した。
ロシアからウクライナとの国境近くにミサイルを落とされたポーランドは、平和維持軍を送るという。
NATO軍が関与するウクライナでの平和維持軍のミッションとは、予備的な概念であるが、ポーランド政府の提案するNATO首脳会合の前夜に提案された計画がそれであった。
CNNのインタビューに対し、ポーランドの駐米大使マレク・マギエロフスキー氏は、「私たちは、この侵略とこの挑発されない戦争をできるだけ早く阻止するために、あらゆる選択肢とあらゆる手段を模索しなければならないと確信しています。それは意図にロシアを直接の軍事対立に巻き込むということではありません。」
と、明確に述べ、その平和維持軍を送るタイミングについては言及しなかった。
駐米大使は、ウクライナにおけるNATO軍のエスカレーションと関与の可能性について話しているわけではなく、"どんなにロシアの攻撃が過激に見えても"、考えられるすべての選択肢を評価しなければならないということ、そして、平和維持軍が戦争地帯で攻撃される可能性があることを認めたが、兎角、「それは議論されるべき提案である」ということを強調するに留まり慎重な姿勢を見せた。
ロシアによって *デマゴーグはブランド化されており、米国もそれを好んではいない。
ウクライナの上空(飛行禁止区域)はすでに侵害されており、紛争のさらなる拡大を恐れている。
米国の外交官、バイデン政権で国際連合大使を務めているリンダ・トーマス・グリーンフィール氏は、NATO平和維持ミッションへの米軍の参加を除外し、今のところ、キエフでのバイデン米大統領の任務を傍観していると付け加え、
「アメリカ大統領は、ウクライナにアメリカ軍を配備しないことを非常に明確にした」と外交官は述べた。
*デマゴーグとは Wikipediaより引用
デマゴーグ(独: Demagog、英: Demagogue)は、古代ギリシアの煽動的民衆指導者のこと。英語ではrabble-rouser(大衆扇動者)とも呼ばれ民主主義社会に於いて社会経済的に低い階層の民衆の感情、恐れ、偏見、無知に訴える事により権力を得かつ政治的目的を達成しようとする指導者を言う。
米国バイデン大統領は、NATO内でいわゆる「クイント形式」のビデオ会議を開催した。
クイント形式ビデオ会議には、フランスのマクロン大統領、英国のジョンソン首相、ドイツのショルツ首相、イタリアのドラギ首相が含まれる。
3月24日(木曜日)にブリュッセルで予定されている北大西洋同盟サミットの議題を設定し、方向性を決める必要があるのがアメリカのバイデン大統領であり、この会議の核となる。
会議の公式説明では、
・各国の指導者たちは、民間人への攻撃を含む、ウクライナにおけるロシアの残忍な戦術に関する深刻な懸念を調査する。
・同盟国は、勇気を持って自国を守っているウクライナ人に支援を提供し続ける。
・人道的緊急事態に立ち向かう努力を続ける。
以上がサミットの主な議題となるという。
国連大使トーマス・グリーンフィールド氏は、他のNATO諸国は「ウクライナ内に軍隊を配置することを決定する可能性がある。そうしなければならない決定事項になるだろう」と付け加えた。
EU理事会のシャルル・ミシェル議長は、「欧州連合とNATOはロシアを脅かしたことはなく、それどころか、ロシアとの定期的な対話を提案し続けてきた。」と、インタビューに答えた。
|『戦略的コンパス』に青信号
欧州での戦争の復活を目の当たりにしているこの大事な時期、『戦略的コンパス』に青信号が灯ったというタイトルのニュースがあった。
有志国で軍事展開可能にする、いわゆる『戦略的コンパス』について、昨年11月には、すでに欧州連合(EU)の外務および防衛担当大臣たちが集まり議論をしていた。
これは、5000ユニットの迅速な介入を提供するなど、今後10年間のEUの安全保障と防衛を強化するための行動計画で、EUが活動する戦略的環境とEUが直面する脅威と危機において断固として行動し、課題についての共通の評価を提供するものである。
EU理事会は2030年までその戦略的防衛計画『戦略的コンパス』を承認したのだ。
戦略的コンパス(羅針盤)のポイントは、安全保証と防衛政策のすべての側面をカバーし、「行動・投資・協力・保護」の4つの柱を中心に構成されている。
⭕️行動(アクション)
危機が発生したときはいつでも、可能であれば同盟パートナーと(必要に応じて単独でも)迅速かつ確実に行動!
複雑な環境下であっても、30日以内に完全装備をしたPSDC(共通安全保障防衛政策)の専門家を200人配備する準備を整える。
陸上と海上で定期的なライブ演習を実施する。
軍事的機動性を向上させる。
迅速かつ柔軟な意思決定を促進し、より堅実に行動、より大きな財政的連帯を確保することにより、EUの民間および軍のPSDC(共通安全保障防衛政策)の任務と運用を強化する。
パートナーを支援するために欧州平和基金を最大限に活用する。
⭕️投資
加盟国は、国防費を大幅に改善する。重要な軍事能力のギャップを減らし、欧州の防衛技術や産業基盤を強化!
安全保障のニーズを満たすために国防費を増やし、改善するという各国の目標を共有する。
加盟国が協力的な能力開発に従事する事で、陸上、海上、空中、サイバー領域、宇宙空間で活動するための戦略的イネーブラーと次世代能力に共同で投資するための追加インセンティブを提供し、促進していく。
⭕️協力(パートナー)
対話と協力の強化で脅威を対処する!
NATO、国連などの戦略的パートナー、およびOSCE(欧州安全保障協力機構)、AU(アフリカ連合)、ASEAN(東南アジア諸国連合)などの地域パートナーとの協力を強化する。
日本、米国、カナダ、ノルウェー、英国など、志を同じくする国や戦略的パートナーとより強固な二国間パートナーシップになるよう発展させる。
対話と協力の強化、CSDPの任務と運営への参加の促進、能力開発の支援などを通じて、西バルカン半島、東部と南部の近隣地域、アフリカ、アジア、ラテンアメリカでオーダーメイドのパートナーシップを構築する。
⭕️保護(セキュリティ)
脅威と課題を予測、抑止、対応する能力を強化し、EUの担保権を保護!
さまざまなツールを組み合わせて、ハイブリッド戦争の脅威をいち早く検出して対応する「ハイブリッドツールボックス」と「応答チーム」を開発する。
サイバー外交ツールをさらに開発し、サイバー攻撃への準備と対応を改善するためのEUサイバー防衛ポリシーを確立させる。
外国からの情報操作と干渉を対処するツールボックスを開発する。
安全保障と防衛のためのEU宇宙戦略を開発する。
それぞれ4つの柱の役割を強化する、これらが欧州の戦略的防衛計画『戦略的コンパス』である。
いよいよ、NATOが戦闘準備体勢を整え出した。
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著者プロフィール
- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie