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イタリア事情斜め読み

ヴィズマーラ恵子|イタリア

ガス高騰で苦しい欧州、イタリアのカーボンニュートラルへの挑戦

iStock- filmfoto

| 国際レベルでガスの価格が高騰でイタリア大打撃

ヨーロッパは、脱炭素の過程として、発電燃料を 石炭や石油よりも、温暖化ガスの排出が少ない天然ガスに切り替えているため、ロックダウン後の景気回復により、需要が供給をはるかに超える一連の"ボトルネック"が発生している。

国際レベルでのガスの価格が上昇したため、ヨーロッパは危機に瀕しているのだ。

イタリアは、ガス燃料による発電は、セラミック工場や、ガラス工場、化学、セメント、製鉄所などのエネルギー集約型の産業活動の50%で広く使用されている。
過去20年間の石炭の大量使用が環境汚染の大きな問題を引き起こしたので、CO2の排出量に基づいて支払われる、いわゆる汚染許可権のコストも値上げされた。

イタリアはエネルギー資源に乏しく、自国でのエネルギー自給率というものは2割を切る。
そして、エネルギーの需要の3分の2以上を輸入で賄っている国である。
ガスが住居でのエネルギー消費の過半を占め、フランスやスペイン、ドイツを大きく上回る水準である。
そのため、ガス価格の急騰が即座に家計の負担増につながる。

| イタリアのカーボンニュートラル

EUの主要5カ国フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、イギリスは、共通の目標として2050年までにカーボン・ニュートラルを達成させる事になっている。
イタリアは、その方針に準じる形で、2025年までに石炭発電所を段階的に廃止すると国家計画目標にあげていた。

イタリアには現在8カ所の石炭火力発電所があり、代替となる太陽光・風力発電所などの建設の認可が出ていないことなどで、計画は停滞・頓挫。再生可能エネルギー利用への移行も依然として課題が残ている。
イタリアの有力紙il Soleでは「2025年までという目標の達成は難しい見込み」と伝えている。


エネルギー転換大臣のロベルト・チンゴラーニは、
イタリアの電気料金は10月から上半期で20%増加し、次の下半期では40%増加すると発表した。

再生可能エネルギーへの移行などで、年間110億を超える負担の重みを一般課税率10%にシフトすることも考えていたり、またイタリアは核融合に関連する研究も続けていくプロジェクトもあるという。

チランゴーニ大臣は、元イタリア工科大学の物理学者である。
彼の説明によると、2つの水素原子の核融合からエネルギーを得る事が可能になるというものを発表していた。
(その真逆が、ウラン燃料を核分裂させ、その際に発生する熱エネルギーを作る原子力発電所である)

イタリアのEniグループは、2025年に核融合エネルギー生産を可能にする最初の実験をすると発表したばかりだ。
大臣は一般の家族に不利益を与えないようにすると約束はしたものの、光熱費の値上がりは痛いものだ。
さらに、ガス代も30%値上げになると言われている。
特に北イタリアでは、家や会社オフィスなどを温めるリスカルダメントと呼ばれる温水循環式ヒーターのお湯を沸かすのにもガスを使うので、これからの寒い時期にガス代が値上がりになってしまっては、家計は大打撃である。

INPSから統合情報システムへのデータ交換で、適格な世帯が自動的に識別され、年間収入8,265ユーロ未満の世帯と、大家族(20,000ユーロ以内で、少なくとも4人の子供)、そして、市民権を持った人または年金受領者および深刻な健康状態にある人々も同様に社会的ボーナスを受給できる。


| イタリアは原子力発電所をもたない

イタリアは原発を持たない国だ。
元々は4基あったが、1986年にチェルノブイリの原発事故があって原子力発電炉4基と5つの核燃料サイクル施設の停止を決定した。
それからどうなったか・・・
電気は原発を持つフランスやオランダなど隣国から輸入しなければいけなくなり、電気は輸入物であるので、イタリアでの電気代は近隣欧州の国々に比べると高いと思える。

25年で一度法案の見直し時期になる、そろそろ原子力発電を再稼働させようという推進派の動きで、事前の世論調査では75%がそれに賛成だった。
国民の誰しもが、「今より電気代が安くなるのならば」という意見が大多数だったからだ。
当時のイタリア首相は、原子力推進派の中道右派フォルツァ・イタリアを率いるベルルスコーニ。
イタリアの産業工業を担う北イタリア、また特にお膝元であるミラノを中心に中道右派の支持率は非常に高い。北イタリアでは原発再稼働への賛成派は多かった。

その国民投票は2011年の6月に控えていたのだが、その3ヶ月前の事だ。
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震発生当時、福島第一原子力発電所の事故が起こった。

この事故で、イタリア国民は一気に世論が変わり、94%が原子力発電所の再建、再稼働に反対を示した。もしも、福島第一原子力発電所の事故がなかったら、間違いなく、イタリアは原子力発電所が復活していただろう。

ベルルスコーニ元首相は、信用不安を機に辞任に追い込まれ、その年の11月に任期を約1年半残し、ベルルスコーニは辞表を表明した。

あれから10年。
2021年7月22日付の報道によると、33%が原子力利用を支持し、56%が将来的な使用を排除しないとする世論調査結果が発表された。
支持の理由は、新しい先進型、新技術による安全性の向上、イタリアのエネルギー安全保障への貢献、低炭素排出などである。


| 国連グローバル・気候アクション・アワード2021

国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局は国連グローバル・気候アクション・アワード2021の受賞者10団体を発表した。

国連気候変動事務局長のパトリシア・エスピノサ氏によると、

「昨年、私たちは世界の多くの地域で致命的な山火事と洪水を目にしました。8月の国連の気候変動に関する政府間パネルの報告は警鐘を鳴らし、科学者が以前考えていたよりも早く世界が温暖化していることを示しています。そして最近発表された国家気候行動計画(NDC)の新しい統合報告書は、残念ながら私たちが間違った方向に進んでいることを確認しました。私たちは、公的および民間部門、市民社会、学界、投資家、都市および地域など、すべての人からの解決策と行動を緊急に必要としています。2021年の国連グローバル気候行動賞の受賞者は、気候危機に取り組むための解決策が存在することの具体的な証拠を提供しています。」

と述べている。

「気候リーダー」と呼ばれる特別な新しい賞のカテゴリーが2021年に追加された。
これは、あらゆるレベル(国、企業、投資家、都市、地域、市民社会全体)での変革的で気候変動に関するリーダーシップを示した行動を表彰したものである。

デンマークの世界初の再生可能島コミュニティから、アフリカの分散型太陽エネルギーの大手債務融資プロバイダー、持続可能な未来のための環境、倫理、社会に配慮したスタイルに焦点を当てたロンドンを拠点とするファッションハウスにまで及ぶ3つのカテゴリー。

【カーボンニュートラル】

⭕️マイクロソフト | グローバル:マイクロソフトは1975年に設立され、2012年以来カーボンニュートラルに取り組んでいる。2050年までに直接または電力消費によって排出されたすべての炭素を環境から除去することを約束している。


⭕️ハロゲートのテイラーズ | 英国:カーボンニュートラルな製品認証が「フィールドからスーパーマーケットの棚まで」である独立した家族向けの紅茶とコーヒーの事業を展開している。紅茶とコーヒーの栽培、加工、出荷からのすべての排出量を占めている。

⭕️ICAグルッペン | スウェーデン:スウェーデンの大手食品小売業者。気候の中立性を超えて、2030年までにグループ自身の事業からの正味ゼロを達成し、2030年までに顧客の食料品購入による気候への影響を半分に削減している。

⭕️Baukjenの家 | 英国:ロンドンを拠点とするファッションハウス。そのビジネスと運営は、生産から材料の循環に至るまで、あらゆる点でサーキュラーエコノミーの理想に従い、カーボンネガティブでありながらそれを実現している。


【気候にやさしい投資のための資金調達】

⭕️SunFunder | アフリカ:アフリカおよびその他の新興地域における分散型太陽光発電の大手債務融資プロバイダーであり、エネルギーおよび長期的な気候投資へのアクセスをもたらした。現在までに、57の太陽光発電会社への1億5,000万米ドルを超える融資を完了した。

⭕️気候ファイナンスのためのグローバルイノベーションラボ | マルチリージョナル:ClimateFinanceネットワークのGlobalInnovation Labは、民間投資家のリスクを軽減しながら、持続可能な包括的でネットゼロの経済に向けて数十億ドルを解放できる、適切に設計された金融商品を加速中。

⭕️アフリカに活力を与える | アフリカ:サハラ以南のアフリカでの再生可能エネルギープロジェクト(ホームソーラー)を人々がサポートできるようにする英国のクラウドファンディングプラットフォームで、現在までに気候変動対策とSDGsのために資金を投入する人々から2500万ポンド以上の投資を集めることができている。


⭕️ヨルダン川西岸とガザの自給自足とソーラー | パレスチナ州:国際金融公社の支援を受けて、再生可能エネルギーのジャンプスタートを支援し、ヨルダン川西岸とガザの経済発展を支援するための国内電力供給へ投資。民間部門初。

【気候リーダー】

⭕️パリ市 | フランス:2050年までに、パリ市は地域の排出量を100%削減し、パリでの排出量ゼロという目標を達成し、2004年のレベルと比較してパリの二酸化炭素排出量を80%削減することを目指している。


⭕️サムソ | デンマーク:サムス島のデンマークの自治体は、エネルギーシステムを化石燃料から再生可能エネルギーに完全に変換し、世界初の再生可能エネルギー島になった。

⭕️グアダラハラの首都圏 | メキシコ:2020年末に開始されたグアダラハラ気候行動計画の大都市圏は、メキシコとC40ネットワーク内で大都市規模で構築された。


2021年の受賞活動は、国連気候変動枠組条約によって選ばれた。

諮問委員会のガブリエル・ジネル委員長は、

「気候危機への取り組みに関しては、私たち全員が果たすべき役割を担っています。国連グローバル気候行動賞の受賞者は、気候変動のますます悪化する影響を回避するために、私たちがもっと多くのことを見る必要があるような大胆で勇気あるリーダーシップで強化しています。」

と述べた。

授賞式は、11月第2週のCOP26で行われる。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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