南米街角クラブ
日本語字幕で観れる!おすすめブラジル映画3本
2021年もあっという間に終わってしまったような気がするのは、気のせいだろうか。
ブラジルは7月に新型コロナウイルスの感染ピークを迎えてから、緩やかに減少傾向。
義務教育も対面授業に戻り、ついに音楽関連のイベントも観客を迎えて開催されるようになった。
人々はマスク着用はしているが、あまり心配せず外出できるようになっているように感じる。
外出の制限がなくなってきたが、強烈な物価高騰により、食料品や光熱費もびっくりするほど値上がりしている。
ガソリンも高い、飛行機のチケットも高い。
コロナが落ち着いてきても、年末は地元に帰省できない家族も多そうだ。
私も、年末年始は旅行せず自宅でピックアップしておいたブラジル映画を沢山観ることに決めた。
そういえば、ブラジルには沢山の素晴らしい映画があるにも関わらず、あまり日本で紹介されていない。
それはブラジル映画がブラジルや南米に住んでいる人にしかわからないようなノスタルジーや社会構造が軸になっているからかもしれないが、そこを抑えられればブラジル映画は驚くほど面白い。
せっかくなので、皆さんに楽しんでもらえそうな日本語字幕版が公開されている映画の中から、今日は3本を紹介したい。
(第二弾を書くことを計画中)
1. 刑務所大量虐殺の実話に基づいたブラジルの現実
『カランジル』(2003)監督エクトル・バベンコ
サンパウロ市北部カランジルに位置する刑務所に、1989年からボランティアとして収容者のケア(主に当時流行していたエイズの調査と治療)をしていたドゥラージオ・ヴァレーラ医師が自身の経験を綴った著書『エスタサォン・カランジル』(カランジル駅)を元に制作された映画。
作品は刑務所内の日常、収容者の様子やカランジルへ辿り着くまでの物語が描かれる。
定員3500人の場所に8000人以上が収容されていた南米最大の施設は、私たち日本人が想像する刑務所とは異なり、まるで一つの地区のようだ。
ルールに従わない者や、自分の母親や女性を暴行して収容された者は収容者たちに殺害される危険性があるため、アマレーロと呼ばれる光の届かない劣悪なエリアに自ら逃げ込む。
彼らは、彼らなりのルールに沿って、自分の思うように生きている。
彼らにとってカランジルの中で生きることも、外で生きることも同じように伝わってくるのだ。
映画を観ていただければおわかりいただけるだろうが、過酷な生活から逃げたいがために事件を起こし収容される者たちは、刑務所の外に出れてもまた同じ生活を強いられ、再び犯罪へ手を染めていく。
彼らが罪を犯したことは確かだが、社会的弱者であることは忘れてはならない。
それを象徴するかのように、1992年10月2日に収拾つかなくなった収容者同士の争いから、111人の収容者が州警察によって虐殺された。 映画はこの事件を風化しないためにと、義務教育の授業で鑑賞することもあるそうだが、事件はもちろん、ブラジルの社会的な問題も考えさせられる作品だ。
ちなみにドゥラージオ医師は今もご健在で、78歳になった今もソーシャルメディアで情報発信をしている。
こちらはポルトガル語のみだが、実際の刑務所の様子を観ることができる
2. ブラジルで大ヒット!田舎から息子2人を歌手にした父と家族の物語
『フランシスコの二人の息子』(2005)監督ブレーノ・シルヴェイラ
以前にも、ブラジルで近年最も聴かれているのはセルタネージョ・ウニヴェルシターリオというブラジルの田舎の音楽が今風になったものだという話はしているが、その先駆けとなったセルタネージョブームの中でも、最も成功したデュオの一つであるゼゼ・ジ・カマルゴ&ルシアーノの兄弟デュオの物語。
舞台はゴイアス州の田舎町。
ブラジルと言えば、リオデジャネイロのような海岸沿いの街が観光地として世界的に有名なため、まだまだブラジル内陸部の実態は謎に包まれているかもしれないが、実際のところ、ここから生まれた音楽が現在のブラジル音楽界を支配しているのだから、内陸部の人々や文化の影響が大きいことはおわかりいただけるだろう。
田舎、特に耕作地に暮らすブラジル人たちは保守的な家庭が多い。
そんな中、父フランシスコは子供たちに教育を与えるために役所に相談したり、畑の売上をはたいてアコーディオンを買ったりと周りから"変わり者"として知られていた。
長男ミロスマールと次男エジヴァルは音楽好きながらもド素人の父と共に練習を重ね、地元で演奏を始めるようになったが、住んでいた小農園から追い出されるように州都ゴイアニアに辿り着くと、一家は食べるものも儘ならない日々を過ごすことになる。
そんな中、家計を助けるために息子二人はバスターミナルや路上で演奏をし小銭稼ぎをはじめたところ、一人のプロデューサー、ミランダの目に留まった。
ミランダに説得されたフランシスコは、一週間の約束で息子たちを地方へ演奏遠征に送り出すが、そのまま音信不通に。
4ヶ月後、息子たちは無事に帰ってきたが、フランシスコ夫妻はミランダに激怒。もう同じ思いはさせないと誓う。
ショーを辞め、家の手伝いをする息子たちを見て、彼らには自分たちの好きな事をしてほしいとフランシスコは妻エレーナを説得。
彼女は、ミランダにチャンスを与えると共に「息子たちにチャンスを与えたい」とツアーに出すことに賛成、ツアーは大盛況だったが、途中で不幸に見舞われ一家は悲しみに包まれる。
この映画は実話であることもあり、ブラジル内陸部の生活を非常にリアルに描いている。
ブラジル内陸部や北東部は、州都を除けば今でも貧しい地区が多く、子供が労働することも決して珍しくない。
子供たちは、夢があっても叶えられるチャンスに恵まれないことが多く、残念ながらこういった状況は今でも続いている。
本作はブラジルで531万人を動員する大ヒットとなり、2007年には日本でも公開されている。
父親が息子の夢を信じるという、当時の(今も!?)ブラジル内陸部では非常に珍しい話が、多くの子供たちとその両親に勇気を与えただろう。
3. 第72回カンヌ国際映画祭で審査員賞!いろんな意味で衝撃的なブラジル映画
『バクラウ 地図から消された村』(2019)監督クレベール・メンドンサ・フィーリョ
ポン・ジュノ監督の『パラサイト』が最高賞に輝いた第72回カンヌ国際映画祭で、審査員賞を受賞したのがこの作品。
私が思うに、好き嫌いが分かれそうな作風だ。
本作は日本でも上映されたが、奇妙なUFOの登場や殺し合いといった部分が大きく書かれ、不思議なアクションホラー映画のように宣伝されていたようだ。
しかし、ブラジル人パートナーとこの映画について考察してみた結果、この作品は全く奇抜ではないと思える。
むしろ現実的な問題をテンポよく描いている。
ここからは『バクラウ』を楽しむためのポイントを書きたいのだが、ネタバレになってしまうので、読みたい方だけ読んでいただきたい。
著者プロフィール
- 島田愛加
音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。
Webサイト:https://lit.link/aikashimada
Twitter: @aika_shimada